人間は醜く、人生は美しいと言うけれど〜I told sunset about you 感想①〜

3月のYniverse Awardで各賞総嘗めだった
"I told sunset about you" 通称ITSAY 。

本国タイでの2期、そして日本ではWOWOWでは1期が放送開始を間近に控えたこのタイミングで作品を観ました。


この授賞式の様子、そしてあらすじはこちらのサイトを参考にさせてもらいました。ありがとうございます↓

"I Told Sunset About You日本放送決定!WOWOWで6月から | プーケットブログいほうじんのぼやき" https://ihojinnoboyaki.com/i-told-sunset-about-you-wowow/

以下、思いっきりネタバレしていますのでご注意ください。








予告を観た限りでは、美しいプーケットの風景もあって切なくも可愛らしい高校生の恋物語だと思い込んでいたのですが、それは見事に裏切られました。   


これはシジフォスの岩のごとく積み重ねても積み重ねても崩れてくる唯一無二の自己を、必死に確立しようとする魂の彷徨の記録でした。

もちろん情緒溢れる恋愛のあれこれもたくさん描かれてロマンティックなのですが、主人公の二人、特にTehがあまりに自分の感情に折り合いがつけられなくて、それ故に次々に周囲を巻き込み傷つけてしまうので、痛々しさの方が勝っていました。

主人公は成績優秀で努力家のTehと、甘えん坊で勉強はちょっと苦手だけれど生来のどこか危うさのあるOh-aew。
この二人は中学の合格発表の掲示板の前で出会い親友となりますが、しかしお互いが同じ「役者になる」という夢を持ったことをきっかけに仲違いしてしまいます。

その後TehはOhや他の友人たちとは別の高校に進学します。  

そして入試対策のために入学した中国語塾でTehとOhは再会します。
最初は反発し合い、喧嘩ばかりして友人たちを呆れさせている二人。

第一話冒頭、得意の中国語で歌劇の曲を歌い面接官から絶賛されていたTehは見事に推薦入試に合格。そしてOhは不合格。

推薦入試合格発表前の諍い中、TehはOhに「(そんな中国語のスコアでは)推薦入試になんか受からない!」と言ってしまい、そのことをひどく後悔します。
実は中学生のときの仲違いの引き金もTehの言葉だったから。

そしてOhの不合格がわかり、自分の不用意な発言をTehが謝る海辺の場面から、二人の関係性が大きく変化します。

なんと言いますか「昔取った杵柄」?ちょっと違いますね(笑)とにかくそこは幼い頃からの親友だったわけで空白を取り戻すべく急速に親密になっていきます。

特にOhが友人のBasのことを実は恋愛対象として好きだ、とTehに打ち明け、「他の誰にも言わないで、秘密だよ」と言う場面。
このときの二人のやりとりが、え?隠し撮り?と尋ねたくなるくらいカメラの存在を感じさせないんですよね。まあ全体を通してそうなんですが。

特にTehの表情が秀逸。
親友の秘密を聞いた驚き、抑えきれない好奇心、そんなこんなをクイッと上げる片眉、悪戯っぽい目線で伝えてきます。
また、TehはOhが同性を好きなことには全く戸惑いを見せず、それどころかOhとBasが上手くいくよう可愛らしい小細工を仕掛けたり。
電話でお互いの恋バナに花を咲かせたり。
でもこれらは後の切ない展開への布石。
 
自ら協力しながらOhとBasがいい雰囲気になってくると何故か焦り不機嫌になるTeh。またこれらを知らせてくるのがOhのインスタグラムへの投稿だったり、自分へのラインだったりするのが、今の高校生のリアルを切り取っているよう。
今ひとつ詳しい機能についていけていないのですが(笑)

そういうTehにもずっと想いを寄せている意思が強く美人のクラスメートのTarnがいて、彼女もおそらくTehのことが好き。

そんな各々に好意を持つ存在がいるのに、いよいよTehの戸惑いが昂ぶって、島のリゾートホテルである自宅へ帰るOhの船に乗りこむ2話終わりの場面。
 
お互いまだ自分の気持の所在がよくわからなくて、でも肉体的欲求も込みの恋愛感情は確かにあって、中国語のフラッシュカード(漢字がわかってよかったとつくづく思いました!)などを介して一見高校生男子らしく無邪気にじゃれ合っているだけのようで、次第に二人の心と体の距離が近づいていくここの緊張感がすごかった。
そしてとうとうTehの胸に倒れ込むOh。その髪の匂いを深く貪るように吸い込むTeh。
「なんの匂い?なんでこんなにいい匂いがするんだ?」
「ココナツだよ。いつもの」
嫌いだったココナツの匂いがOhによって好もしいものに変化したとき。それは恋に落ちたということだよ、Teh。
きっと無意識なんだろうけれど縋りつくようなそれでいて誘っているようなOhの眼差しがTehを狂わせていくのでした。

ここからのココナツを巡る描写がとてもとても官能的。
3話冒頭。Tehは早朝の薄暗いなか、母が営む食堂に一人座り、ココナツの大きな果肉を顔に貼り付け匂いを嗅ぎます。まるでOhの体そのものを感じているかのよう。

後場面はOhの自宅の浴室へ。そこではいつも使っているココナツの香りのシャンプーを手に取り同じように深く深く吸い込むOhの姿が。

お互いが相手のことを思い出しながら同じ香りを嗅ぐ。それだけなのに直接的な性描写よりよほどエロティックでした。

さて受験勉強もいよいよ大詰め、ということででTehとOhを含む友人グループ六人は、Ohの両親が営むリゾートホテルで勉強会をする計画を立てます。一足先に合格を決めているTehはみんなの中国語の先生役。 

いや、こんな開放的で景色も抜群のラグジュアリーなホテルで勉強できるんですかね(笑)

ま、それはともかくこの海辺でハンモックの二人、物語の中でも屈指の名場面へ至ります。

そこまでの過程が本当に丁寧。
ホテルの部屋割りでOhがBasと一緒になると、共同で使う大きなリビングルームをうろうろするTeh。
ジリジリする彼の焦燥感がピアノが奏でる不協和音により増幅されます。

またOhもせっかくBasと二人きりになり、同じベッドで寝ているのに!さほど胸が高鳴らない自分に気が付きます。

もう確実にTehの方に気持が傾いているOh。
だってすぐそこにBasがいるのにTehに膝枕とかさせているし!

そして一応勉強のために早朝4時に起きたBas以外の3人とTehとOh。

すきを見て部屋を抜け出し、二人だけでビーチをじゃれ合いながら散歩し、赤いハイビスカスの花を相手の耳に差し合い、ハンモックに向かい合って寝そべり足と手を絡め合う(しかし二人共足がきれいだな)。この間二人はずっとお互いの顔からほとんど視線を外さない。
 
そして雑誌のインタビューで監督がおっしやっていた直接「好き」という言葉を使わない告白の応酬が連なります。

長くなりますが、ここはとても大切な場面なので詳しく書きたいと思います(訳はかなり適当です)

Basと同じ部屋になっていいムードか?と尋ねるTeh。
しかしOhはこう答えます。
Basが今度どこか一緒に出かけようと言ってくれたとき、以前みたいに心臓がドキドキしなかった。べつにどこにも行きたいとも思わなかった。

それを聞いてびっくりしたように(本音では驚いていないよね、Ohの気持ちに気づいているよね)目を見開きTehは矢継ぎ早に質問します。

「彼(Bas)に飽きたのか」 
「彼に他に好きな人ができたのか」
そのどれもにゆっくり首を横に振るOh

「じゃあ他に好きな人がいるのか」
そう尋ねたTehにOhはぐっと顔を近づけ、思わせぶりに(きっとそんなつもりはないんですが)見つめます。
「ホントに?誰?教えてくれよ」(Teh)
「お前はわかっていると思うけど、ホントにわからない?」(Oh)
「いつから?」(Teh)
「わからない、お前はいつから?」(Oh)
「わからない。俺はただお前ともっと仲良くなりたい。お前が他の人と仲良くなるのを見たくない。それだけだ。」(Teh)
「それは嫉妬しているんだよ」(Oh)

そしてOhは自分が耳に指していた赤いハイビスカスの花をTehに握らせます。
この短い何気ない仕草がとても優美でなおかつ妖艶で、PPくんの演技力と天性の魅力に唸ります。

赤は最初からOhを表す色。身につける洋服も持ち物も常にどこかに赤があることが多い。
また、ハイビスカスは同じ花冠におしべとめしべを持つ花。監督さんもこの物語の重要なモチーフと言っています。

いつの間にか白んできた空。

大事な一人称、二人称がわからないのが悔しいのですが、まるで往年のフランス映画(思い込みとも言う)のように核心を避けながら言葉を選び思いを探り合う様が、また何度目かの「これ演技だよね?」と自問自答状態でした。

もう間とか視線の動きがあまりにも真に迫っている!むしろ台詞がないときの方が雄弁なくらい。

 
ホテルでの勉強会が終わってもTehの思いは募るばかり。  
自室の青い絨毯(青はTehを象徴する色)の上で何度も寝返りを打ったり、何をするでもなくただうろうろしたり。溜め息をついたり。
ここでTehの様子のみを描いたのは、Ohよりも彼のほうがより自分の恋心を直視できていないことを示していたのでしょうか。

それでもやっぱり一緒にいたくて、申し合わせてもいないのにいつもの海辺で落ち合う格好になる二人。TehがOhを追いかけたり、かと思うと向かい合って抱き合いかけたり、体をぶつけ合ったり。
そして街なかに戻るとほとんどそれもうデートでしょ、というような時間を過ごします。
お寺に参る場面が特にお気に入り。可愛かったな。

二人走って辿り着いた岬で夕日は残念ながら見られなかったけれど、大学に合格したら二人でここに夕日を見に来ようと誓い合います。

暗くなるまで岩に座って家族のこと、進路のことなどを語り合う彼らの姿は、普段友達と一緒にいるときには決して見せないもの。

そして何となく二人にとって思い出深い中国語の歌を口ずさみ始め、Ohが一節ずつ歌うたびTehが歌詞を訳していきます。
「万里の河も僕達を分かつことはできない」
「例え時が僕達を隔てても、僕は君を探し続けるだろう」
「もし運命が僕達を引き裂いたら、どうすればいい」
この時はずっとOhの顔を中心に撮られているのが暗示的。 
気がつけばあたりは暗くなり始めていました。

https://youtu.be/hJeEOzEZstU



そしてTehの家に帰ってきたときはもうすっかり夜も更けていたので、Ohはそのまま泊まることになりました。

一応(笑)一緒に中国語の勉強はしているけれど意識し過ぎてどうにかなりそうな二人。

すると小鼻をひくひくさせ始めたOh。それが背中が痒いときの子どもの頃からの癖なのを知っているTehはOhの背後にまわり掻いてあげるのですが、だんだんそれが違う意味合いに変わっていきます。後ろからOhを抱き締め体のあちこちをまさぐるTeh。その明らかに性的な仕草に身を任せるOh。

ここは終始二人無言で息遣いだけが生々しく部屋に響いていて、青く硬質な欲望がどんどん充満していくようでした。

しかしいよいよTehの手がOhの胸にかかったとき、急に我に返ったかように動きを止めます。

Tehは気づいたのです、Ohが自分と同じ性であることに。

そして唐突に下の部屋に行くと告げ、その場を去ります。
置き去りにされたOh。 
我が身に置き換えるといたたまれないことこの上ない。
何とも気まずく情けない彼の姿をカメラは執拗に辛くなるほど長めにとらえ続けていました。

自力で努力するのは少し苦手だけれど、素直で自分の気持ちを衒いなく見つめることのできるOh。

理知的で目標のために計画立てて行動出来るけれど、名前のつけられない内なる感情の前には途方に暮れて混乱してしまいがちなTeh。

この3話最後の場面はそんな二人が行き違い、そしてある意味残酷な展開を迎えるであろうことを予感させるものでした。

それにしても主演の二人の演技力、表現力に圧倒されてばかりでした。

Billkinくんは、顔だけでなく体の動きにも表情があって、特に自分の感情を持て余しているときの所在なげにうろうろしたり、倒れ込んだりするときが本当に上手い。またその細身の少年っぽさを残した体型により、思春期の揺らぎをよりくっきり見せてくれていました。

PPくんは、やはりその眼差しと色白のしっとりしているであろう肌ですよね。その大きな目に宿る恋情、戸惑い、怒り、悲しみが今にも零れ落ちそうで見る者、何よりTehを惹きつけてやまない。
彼に恋したらある意味世界の終わりに行き着きそうな狂おしさがあるんですよね。

後は学校や塾などで、友人たちからの死角で話をしたり、机の下で触れ合いそうになる足だったり、大勢の中の密やかな二人、という描写がリアルで素敵でした。


また本当に音楽が、いや音楽も素晴らしい!

中国古来の旋律を感じさせる美しいテーマ曲。
どこか懐かしさを感じさせる往年のビッグバンドのようなインストゥルメンタル曲。

中国の影響を色濃く受ける古都プーケットの町と、二人をつなぐ中国語を象徴しているよう。

Billkinくんの圧巻の歌唱力と類稀なベルベットボイスが物語をより一層心に響くものにします。



恐ろしく長くなってしまったので、4、5話については分けて書きます。
後半はますます胸を掻き毟られるような話の連続だから時間がますますかかりそうです。