テラス席へどうぞ②

https://yoshinashitan.hatenadiary.jp/entry/2021/06/14/171736

テラス席へどうぞ①↑
の続きです。


お洋服を見るのは大好きで、特に次女とはしょっちゅうお気に入りのブランドの新作の話とかしてるんですが(めったに買うことはありませんが、笑)、男性のものは本当にわからない。






そんなに混雑はしない、とは聞いていたが念のために予約していた日曜日午後2時きっかりにPureとFoIkはホテルのカフェに到着した。


Folkは淡い澄んだ水色の襟付きのシャツを着ている。
これは昨日大学近くのPureお気に入りのセレクトショップで二人悩んだ末選んだもの。

素材がフレンチリネンだけにややもすると「田舎のおじいちゃんのリラックス着」になりそうなところ、とFolkのすんなりとした腕を引き立てる七分袖とやや細身のシルエットが洗練された印象を与えることに成功していた。

ボトムスはほとんどがデニムの手持ちの服の中、珍しくあったセンタープレスの紺のテーパードパンツ。
薄手のストレッチ素材で(Folkいわく涼しそうだったから去年買った、らしい)先に向かって細くなるデザインなのでこれまたFolkの長い長い足を強調している。
それにシャツと一緒に買った白のレザーのスニーカーを合わせた。


そもそもそこらのモデルにひけをとらない抜群のスタイルの持ち主なので、色合いやデザインに凝ったところがなくても少し工夫するだけで驚くほどスタイリッシュになる。

それでも寮の部屋を出る前は
「なあ、本当にこれでいいのか」
と少し不安げなFolkだったが、
「大丈夫、すごくカッコイイよ。カフェに行ったらみんなFolkのこと見るだろうな」
満面の笑みで言うPureに、呆れたときの癖で少し顔をしかめ、首を左右に振って
「何言ってんだか。お前以外に誰が俺を見るっていうんだよ」 
とFolkは言った。

もちろん今年の歯学部のMoonに選ばれたくらいなので自分の容姿の程度はわかってはいるはずなのだが、一貫してそのことをあまり意識してはいないようなのだ。

それがPureには可愛くもあり、心配でもある。
(自意識低めのイケメンくらい恋愛市場で最強なやつはいないからな)
おまけに知的で物腰も柔らかく基本的に誰に対しても親切だし。

そんなPureの心境を知ってか知らずか、Folkは最終的には納得したようで今はとても楽しそうだ。

今日のPureは白のヘンリーネックのTシャツにFolkのシャツと同じリネン素材の黒の五分袖ジャケット、ベージュのスキニーパンツ、靴は黒のスリッポンといった出で立ち。
個性的で派手な服もお手の物のPureだが、とにかくFolkを引き立てることに全力投球なので極力シンプルに控えめにした。


さて店内に足を踏み入れると、ネットの画像で見ていたもののやはりどこまでも高い高い天井と一面の大きな窓、それらを強調するドレープが優雅な長いカーテンなどが醸し出すクラシカルな雰囲気に多少圧倒された二人ではあった。
それでもテラス席に案内される短い間にPureは居合わせた客たちが一斉にFolkに視線を奪われたのを見逃さなかった。

渾身のPureセレクトのお陰はもちろん、なんと言ってもFolkの年齢よりも大人びた落ち着きと品の良さが老舗ホテルに想像以上に似合っていたからだろう。
それが内心自慢でならないPureだった。


そして二人は望み通り白を基調とした美しいテラス席に座った。乾季のこの時期は戸外でもそこまで暑さは感じない。

ときおり吹き抜ける風がFolkの水色のシャツと柔らかい茶色がかった髪をはためかせる。

目の前の川の流れはゆったりと穏やかで、行き交う船を興味深そうに眺めるFolkをじっと見つめるPure。
しばらくするとそれに気づいたFolkが苦笑気味に
「せっかくこんな景色のいいところに来てるのになんで俺の顔ばっかり見てるんだ」
と言った。
「どんなにいい景色もお前がいなけりゃつまらないからな」
Pureの言葉に
「そんなじゃ小説には使えないな」
少し顎を上げて答えたところで
三段トレーに芸術品のような彩りのアフタヌーンティーセットが運ばれてきた。

途端にさっきまでの不遜さ(勿論わざとなのだが)はどこへやら、子どものような表情になり 
「うわあ!綺麗だな!」
と小さいながらはしゃいだ気持ちを隠せない声でFolkで言った。
「よくわかんないけどこれは好き」
と彼が指さしたのはアフタヌーンティーには外せないスコーンとクロテッドクリーム


まずは紅茶か、ということで民族衣装に身を包んだウェイトレスがポットから注いでくれたカップでPureとFolkは軽く乾杯の真似をした。明らかに高級なものなので実際にカチリと合わせることはしなかったが。


またテラス席を風が渡る。
それに目を細めながら香りの良い紅茶を飲むFolkは本当に優雅でまるで絵のようだ、とPureは思った。

カップを持つその手首にはシャラシャラと音を立てそうな華奢な銀のブレスレット。

「それ似合ってるな」
Pureが嬉しそうに言うと
とFolkは照れたときおきまりのぶっきらぼうな口調で
「ま、初めてのおそろいだからな」
とPureと視線を合わせず答えた。

そう、Pureの片方の耳にだけブレスレットと同じデザインの銀のピアスが揺れていた。
これらも昨日Folkのシャツと同じ店で買った。
 
控えめで清楚なデザインはFolkにはぴったりだったがPureには大人しすぎる気がしたものの
「一つくらいおそろいのものがあったっていいじゃないか」
というFolkのお願いに逆らえるPureではなかった。大体なんでコイツの方が背がずっと高いのに上目遣いされたような気がするんだろうか。

などと愛する人と共通の思い出が増えていく喜びをしみじみ噛み締めつつ
「じゃ食べるか」
とPureが言い、それを合図に完食するのはなかなか骨が折れる、と評判のボリュームのあるメニューに二人は元気よく手を伸ばしたのだった。