海に還る日

IPYTMep5、TehがIGに上げた写真を見たQの気持ちを思い浮かべて書きました。
いまだに書けないIPYTMの感想の代わりでもあります。
ネタバレしておりますのでご了承ください。
















それは本当に久しぶりで、しかも唐突だった。
TehとOhが二人並んだ写真がインスタグラムに投稿されたのだ。

Tehの兄の結婚式に出席するため二人ともエレガントな正装のスーツ姿。

それに反するかのようにややしかめっ面のOh。
してやったりとばかりに満足気なTeh。
はっきり言って実際の彼らを思えば写りはかなり微妙だ。
そしてTehの手には白い薔薇の花束。
背後には彼らの故郷のプーケットの海。

(まるでお前たちの結婚式みたいだな)
そう思ってQは薄く微笑んだ。




いつOh-aewを好きになったのかって聞かれたら答えは
「初めて会ったときから」

Ohはこれまで会ったどんな人とも違っていた。
バンコク生まれバンコク育ちといっても誰も疑わないくらい洗練されていてお洒落で、無邪気で寂しがり屋で、華やかで開けっぴろげなようで肝心なことは言わなくて。

都会の目に痛いほどのネオンの輝きも、地元でしか知られてないような砂浜で見る夕焼けも同じくらい似合う人。
彼の大きな、いつも月明かりを閉じ込めているみたいなよく動く瞳を見ていれば時間なんか忘れた。

親しくなればなるほど、どんどん彼に惹かれていったけれど自分の気持ちを告げることはないだろう、と早々に見切りをつけていた。
OhがTehを見つめる視線の色を見たらもう最初から勝負はついていた。

何より二人が一緒にいると、どこからか波の音が聞こえ、Ohが使っているココナツのシャンプーの匂いに潮の香が混じる錯覚をいつも覚えた。
それは決して他の誰も立ち入れない世界だった。

やがてTehとOhの関係は行き違い、ちぐはぐになり、大学3年生のとき二人は別れた。
関係を終わらす決心をしたOhは一週間俺の家でずっと泣き通しだった。

もしかしたらこれは自分の出番が回ってきた、と密かに喜ぶ場面だったのかもしれない。
でもどうしてもそんな気にはなれなかった。

とめどなく涙を流し、疲れ果て、やっとソファで浅く苦しい眠りについたOhからはより一層強く潮の香が漂ってきた。
それが何を意味するのか、考えるまでもなかった。

それから暫くしてTehはかねてからの目標通りデビューして、端正なルックスと情感豊かな演技力で人気俳優の仲間入りを果たした。
特に新人ながら
「横顔が美しい俳優ベスト10」
にもランクインしていた。

そのシルエットにQはとても見覚えがあった。
煮詰まったコーヒーを飲んだような苦い思い出。
大学も違ったし、いわゆる「友人の恋人」だっただけなので実はそんなにTehに会ったことはない。
その数少ない機会でもひたすら彼の横顔を見ていた気がする。 
なぜならTehは隣に座るOhの方ばかり向いていたから。

卒業後、Ohは大学時代の実績が認められ大手広告代理店に就職した。

それからの二人に何があったのか俺は知らない。

ただ次にOhに会ったときには、これまでで一番芳しく優しい海の気配を纏っているはずだ。
その彼の目を真っ直ぐ見て
「おめでとう」
と言うのだ。 
それはOhへの恋に告げる
「さようなら」
と同義語になるはずだ。

いつかは俺も二人だけしか聴くことのできない音、嗅ぐことのできない匂いを共に感じられる相手に出会えるのだろうか。

それくらいはOh、君に尋ねてもいいかな。