空港点景〜おかえりの言い方〜

お二人のSNSを見ていたら少し切なくなりましたね。
会いたくても会えない状況。
架空の世界くらい甘やかしてあげたいな。
甘いといえばこれ。
ありきたりですが思いつきました。












ある土曜日の午後、Piはスワンナプーム空港の国際線到着口に来ている。

Morkが約二週間の日本の大学での研修を終え帰国するのだ。

(そりゃもちろん迎えに来るつもりだったけどさあ、土曜日なんだし)
Piは心の中で愚痴る。

帰国する数日前からメッセージでのMorkの催促がすごかったのだ。
「土曜日には帰るよ」
「到着予定時刻は2時半くらい」
「帰国したら一番にPiに会いたい」 
「渋滞に巻き込まれるかもしれないから、電車で来た方がいいかも」


うんざり、はしなかったが
「わかったわかった、わかったよ!」
スマホの画面に噛みつくように叫ぶくらいには呆れていた。
でもその自分の顔が赤くなっている自覚はあった。

そんなこんなを思い出しているうちに空港内にMorkの乗った飛行機の着陸を告げるアナウンスが響いた。


暫くしてゆったりしたベージュの開襟シャツにブラックジーンズというごくあっさりした格好なのに、相変わらず人目を惹く美貌とスタイルの恋人が到着口から大きなリュックを背負い、キャリーケースを引きながら出てきた。

しかしそのクールな出で立ちもPiの顔を見た途端、ご主人さま至上主義の大型犬と化した。

「Pi!」
と音がなりそうなほどブンブン手を振り、長い足であっという間に近づいてきた、かと次の瞬間
「ただいま、会いたかった!」
Piが制止するいとまもなくひっしと抱きついてくるMork。
「こ、こら!やめろって!みんな見てるだろ」
小声で諌めるPi。

大体いつも
「Piは可愛いんだからあまり目立つことするなよ」
とか訳わからないことを俺には言うくせに。
自分の方がよっぽど注目されているだろうが。

「とにかくちょっと離れて、ずっとこうしてる気?」
「俺はそれでもいいよ」
と今度は自分の顔の良さを最大限活かした余裕の笑顔を見せる。
Piは本気で頭痛を覚えた。 
(そうだ、こいつはこういうヤツだった)

「とにかく帰ろうよ。駐車場に行こう、車で来たから」
「渋滞するから電車でいいって言ったのに」
「だって荷物多いだろ」
Piがそう言うと実は甘えたがり(但しPiに限る)のMorkは心から嬉しそうな顔をした。

程なくしてPiの車に乗った二人はエンジンをかける前の車内で見つめ合った。

「おかえり」
Piは静かに言うと、両手でMorkの後頭部を引き寄せ既に懐かしくなっているその少し厚めの唇に軽く優しいキスをした。
そしていつもとは逆に胸にMorkの頭を掻き抱く格好になり
「会いたかったよ」
と耳元に囁いた。
珍しくMorkも素直にされるままになり
「Piの心臓の音落ち着く」
と安心しきったように目を閉じた。

暫くそうしていた後
「じゃ帰ろうか」
とPiが言い、エンジンをかけようとした。
と、
「あ、そうだ」
ダッシュボードを開け、中から何やら袋を取り出した。
そして包みを破ると
「はい」
とMorkに差し出した。
「何これ?」
「疲れたときは甘いものだろ」
それはドライマンゴーに半分くらいチョコレートがかかったお菓子だった。
「2週間ぶりだからタイらしいものにしたんだ」
と何やら得意げなPi。
「なるほどね」
Morkが一口齧ると確かに慣れ親しんだ味がする。
「旨いよ」
「よかった」
わざわざこれをPiが選んで買ってくれたという事実に胸がいっぱいになる。
思わずMorkの方からキスをする。ついつい舌を絡めてしまった。

「もう、何やってんだよ!」
「いつまでたっても帰れないだろ」 
頬を赤くしてPiは今度こそエンジンをかける。
「チョコレートも甘いけどやっぱりPiの方が甘いな」
Morkが言うと
「全く!帰ってくるなりそれかよ」
と口先だけの悪態をつきPiはMorkをひとにらみすると、車を走らせ始めた。
その車内にはほのかにマンゴーの香り。

南の国の恋人たちには南の国の果実がやはりよく似合うようだ。