飛び石のダンス
またまたちょいとお久しぶりのMorkPi。
なかなか思いつけなかったのですが、この曲のおかげで書こうかな、となりました。
しかし月の話が好きですね、自分(笑)
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「エイリアンズ」
https://music.youtube.com/watch?v=NBcxUmPZEw0&feature=share
元曲のキリンジのもの勿論大好きですが、とにかくこのUNCHAINのカバー版がお気に入りなのです。
「どうしたの?Mork」
朱筆に撫でられたいくら触っても飽きることのない柔らかな頬。
とろりとバターを落としたような少々開けづらそうな瞼。
昨日のことだ。
「明日授業が終わったら実習の打ち上げがあるから」
とPiに告げられたときからMorkはもう気が気ではなく。
勿論送り迎えはかって出た。
付き合い始めてからというもの可能な限りPiの傍らにいるMorkは、当たり前のように今夜の集まりの詳細も把握していて、皆気の置けない信頼できるメンバーだとわかってはいる。
でもアルコールが入ったPiの無防備さを一番身をもって知っているのもまた自分。
Pi からの
「そろそろ迎えに来て」
のメッセージが来るまでひたすらスマホの画面をひびが入らんばかりに凝視していた。
そしてようやく(と言ってもたった数時間ぶり)再会できたその人は、長い手足で調子外れのダンスのステップを踏むように楽しげにMorkの少し前を歩いている。
Morkが車を停めた駐車場は店からは少し離れていて、住宅街を抜けていくのが近道なので人通りもごく僅かで、間遠な街灯が路面にぽつぽつと光の輪を落としている。
するとそんな一つの真下に立ち止まるとPiが
「Mork、来てよ」
と南の国の湿度の高い空気に溶けそうな少し鼻にかかった声で呼びかける。
「どうした?」
とMorkも同じくあえかな月光のような街灯の下に入る。
ふと見ればPiは、これなら大抵の人間は落ちるんじゃなかろうかという(恋した欲目かもしれないが、元々派手さはないが怜悧な美貌の持ち主なのだ)誘い込む上目遣いでMorkを見上げ
「迎えに来てくれてありがとう」
と言ったかと思うと少し背伸びするようにして自分の少し薄めの唇をMorkの対照的にふくよかなそれに押し当てた。
「次の街灯まで来たらお前にキスしようと思ってたんだ」
と微笑む。
酩酊しているのは彼なのか自分なのか判然としなくなる。
汗とアルコールとPiの匂いがMorkの鼻先を掠めていく。
いつもの消毒薬と歯磨き粉が入り混じったどこか潔癖なそれは今はない。
都合のいいことに今夜は新月。
路地の頼りない人工の朧月を外れたら闇が二人を覆い隠しているだろう。
誰の目にも触れないところにPiを連れて行こうとMorkは手を伸ばしたけれど、日頃からはついぞ想像もつかない軽やかな動きで身をかわしPiは次の街灯へ進んでいく。
光の輪は飛び石。
それを不規則に渡っていくPiはあまりにいとけなくて、しかしひどくMorkの官能を刺激する。
向こうには大通りが見えてきた。
都会の夜にふさわしい輪郭のはっきりとした光が押し寄せてくる。
駆け出しの踊り子の優しい暗がりの舞台は一旦ここで終了だけれど、第二幕はどこにしようか。
車の中は、さすがにふさわしくないか。
やはり幕間の休憩をとってもらってから後、乾いたシーツの上にご登場願おうか。
大丈夫。
この演目のチケットを持っているのは自分だけ。
Morkは見えない今夜の月にその幸運を感謝して、一幕目を終えたPiのために車のドアを開けた。