ミント味のエスコート

今回は自分にとってかなりハードルの高いMorkPiなのです。
鶏胸肉さんとのやりとりから
「やってみるか」
となりました(笑)

書いている間はひたすら"Waltz For Debby"を流していました。
何か勝手にコーヒーカップとか回転木馬のイメージなんですよね。 
どうしようもないビル・エヴァンスが愛娘のためにかいたあまりにも愛らしい曲を僭越ながら使わせてもらいました↓

https://youtu.be/4YzkSfViVNQ

迷子の理由の後日談でもあります。

「迷子の理由」↓
https://yoshinashitan.hatenadiary.jp/entry/2021/11/13/104554






(休日の遊園地なんてどうなることかと思ったけど)
Piは周囲を見回す。
先日の約束通り開園と同時におそらく市内では一番古くからあるここにやってきたMorkとPi。

最初のうちこそ成人男性しかも高身長の二人連れ、という状態に人の目が気になったもののいつの間にか思いっきりいくつかのアトラクションを楽しんでいた。
そして喉の渇きと多少の疲れを感じていたところ、相変わらずPiのこととなると異様なまでの察しの良さを見せるMorkは
「Piはここで休んでて」
と木陰のベンチに彼を座らせ何か甘いものでも、と買いに行った。

天気は快晴。
幼い子がクレヨンで塗ったような迷いのない青空。
それを見上げているとMorkが戻ってきた。

「疲れた?」
いつまで経ってもどうしても自分に向けられていると咄嗟には信じられないその手に持ったアイスクリームもかくや、という甘さにくるまれたMorkの声。

Piの顔を覗き込む柔らかな眼差しからは隠す気なんかまるでない恋情がビー玉のように転がり出る。

「さすがに人が多いからな、でも大丈夫」
と努めて平板に答えるPi。
手渡された薄青緑の氷菓が溶けそうなのはきっとこの国の高い気温のせいだけじゃない。

プラスティックのスプーンを口に運び冷たいミントチョコレートの味にそれでもほっとする。

なのに
「何見てるんだよ?!」
戸惑いと恥ずかしさでちょっとたけ尖ってしまう言葉。
緩んだ顔していてもやっぱりカッコイイんだよな、
などとぼんやり思ったが絶対言ってなんかやらない。

「よくそんなに見て飽きないよな」
「飽きることなんかない」
よくそこまで間髪入れず答えられるもんだ。

それでも大学内と違い、自分たちを知っている人がほとんどいなくて家族連れが目立つのどかな雰囲気に気が大きくなったPiは
「ほら」
とアイスをすくってMorkにスプーンを差し出す。
「食べさせてくれるの?」
綺麗な二重の下の大きな瞳が喜びで一層大きくなる。
「いちいち言うな」
Piは邪慳な手つきでそれでもMorkに食べさせ、自分も食べてを繰り返す。

「Piに食べさせてもらえるなんて俺は世界一の幸せ者だなあ」
あ、コイツとうとう口に出してしまったよ。

「Pi、顔が赤い、大丈夫?今日は特に暑いから」
と額にMorkの大きな手の平が当てられる。
だから!
そんなことされたらもっとのぼせるだろうが!

「大丈夫だから、やめて」
思わずうつむいて今度は小さな声で懇願する。
羞恥に慣れない自分が恥ずかしくなるループ。

すると額から顎に手が降りてきたと思うとPiの小さな顔を軽く持ち上げ、Morkはその頬に素早くキスをした。

「お前なあ!」
これだけはどうしても身についた習性でついつい辺りを伺ってしまうPi。
でもここはかなり敷地内でも外れの方なので、まるでエアポケットのように驚くほど人影は少なかった。

場所選びも抜かりないんだな。
口惜しさと安堵と期待がないまぜになって、でも往生際悪くそれを悟られなくて、空になったカップを脇に置いてPiは目を閉じMorkの肩に自分の頭をもたせかける。

快活な音楽。
子どもたちの歓声。
少し遠くから聴こえるそれらに合わせるようなリズムでPiの髪をくしけずるMorkの長い指。

その心地よさに二人以外は輪郭があいまいになるその感覚にただただ身を委ねていたくなる。
お前と付き合って初めて世界にはこんなものがあると知ったんだ。

Morkの片方の手は初めて触れるかのように形を確かめて記憶に刻みつけるように、一本一本Piの指をなぞる。

「くすぐったい」
呟きはふわふわと頼りない響き。

そんな二人を風が撫で唇に残ったミントの名残を刺激する。それに不意をつかれたPiは目を開けて自分のほっそりとした指でひんやりした感触の残るそこに触れる。
それから葉擦れの音に聴き入っているみたいに目を細める。

何も意識していないのが明白なそんなささやかな仕草の連続に、Morkはもう数えることなどとっくに諦めた白旗を今回も揚げる。


「Pi、観覧車に行こう」
「え?」
Morkのわざとひそめた声に今度はPiが目を見張る番だ。
「観覧車は最後に乗ろうって言ってたよな」
「これ以上こんなPiを誰にも見せたくない」
こんなって一体なんだ?
俺がどんななんだって言うんだよ?

その疑問符の先にある答えにすぐにでもたどり着いてほしいような未来永劫わからないでほしいようなMork。

そんなため息混じりの恋人の胸中を知ることもないPiはMorkに手を引かれ、二人だけになれる色とりどりの宙に浮く空間の一つへとエスコートされるのだった。