鳳凰木を一枝

台湾BLドラマの人気シリーズ HIStory
その中の一つが「越界」
「君にアタック」というどこをどうしてもダサい邦題はうっちゃっておきましょう(笑)
高校のバレーボール部を舞台とした恋と青春が眩しい快作です。

粗筋はこちら↓(丸投げ、笑)

https://datv.jp/program/DT001402/




で、この主役カップルの一人えらくいい体をしたのび太くん(けろさん、お借りしました)こと、永遠の憧憬の君ツーシュアン先輩に捧げる短編です。

モブ目線で書くのって楽しいですね。自由度が広がって(捏造とも言う、笑)
完全に推しに対するファンレターです。
鳳凰木の話はネットで拾った付け焼刃もいいところの知識です。いろいろ間違っていたらゴメンナサイ。



















先輩、あなたを初めて見たのは友達に誘われて観戦に行ったバレーボールの地区大会。
重力を感じさせない柔らかいジャンプ。しなる体と腕から繰り出される空気をも切り裂くようなスパイク。そして高い打点から抜群のコントロールで繰り出されるジャンピングサーブ。
あっという間に魅了された。

私の通う高校のバレー部は強豪と言えたので注目度も高く、特に周囲に言い訳しなくても観戦に行けたし、何なら練習も時々見学できた。一つ一つのプレーに真剣に取り組む姿、休憩中に仲間とふざけ合う姿、反省点を考えているのか静かなそれでいて飄々とした横顔。遠目でそれらを見ていられたらそれでよかったのに。

そんなちょっとじれったくて切なくて、でも楽しい日々は、先輩がプレー中に大怪我を負ったあの瞬間から一変してしまった。


体育館にも、もちろん試合会場にもあなたはいない。
その現実に打ちのめされて泣いていた。でも一番辛いのは先輩。それが嫌というほどわかっていて、そして何もできないくせに泣いてしまう自分が本当に情けなかった。


しばらくして先輩はバレー部に復帰した。
でも選手ではなく部長として。膝の怪我は先輩から選手生命を奪った。
ひたすら冷静に熱心にチームのために尽力する日々だったんだと思う。
思うというのは、その頃の先輩に会いに行く勇気がなかったから。

だって誰よりもバレーボールを愛していて、バレーの神様からも愛されていた先輩が二度とコートに立てない、その事実をこの目で見るのが怖かった。

そんなある日、塾の授業が長引いて帰りがいつもより遅くなった小雨降る夜、先輩と彼を見かけた。
暴力事件がもとで前の学校を退学になったと噂の男の子。
確かに一見ちょっと、いやかなりやんちゃそうだったけれど足を引きずって歩く先輩を心から気遣っているのがわかったし、先輩も安心して頼っているみたいだった。

しばらくしてその彼シャ・ユーハオがバレー部に入部したと聞いて、私は久しぶりに体育館へ足を運んだ。

そこにはプレーこそしないけれど相変わらずバレーに誰よりも打ち込んでいる先輩と、先輩の厳しい指導に必死に食らいついているユーハオの姿があった。

そして何か天啓と言ったら大袈裟だな、とにかく先輩が多くの葛藤を乗り越えて今があるんだな、そこにはユーハオの存在があったんだ、と何故かすとんと腑に落ちた。

多分二人がお互いを見るときの眼差しのせい。 
ユーハオは尊敬と恋と独占欲と。
先輩は自分では気付いていないだろうけれど、ユーハオが活躍すると自分のこと以上に喜ぶし、終始本当に大切そうに見つめているし。

意識するとその存在ってなぜか視界に入るもので。
放課後の教室で先輩に勉強を教えてもらっていたり。 
校庭の並木道で何故か亀の小さなぬいぐるみをユーハオが先輩にあげていたり。 
それを受け取った先輩が本当に嬉しそうだった。

ほぼバレーをしている時限定でもずっと見てきたはずなのに、ユーハオと一緒だとどんどん新たな先輩の顔が引き出されていく。

そのことの意味を悟るのにさほど時間はかからなかった。

確かに悲しかったし、いくら叶わぬとはいえ、先輩の隣を歩く日を夢見なかったと言えば嘘になる。エースアタッカーで学業も優秀、知的な風貌の先輩は告白されたことは何度もあったろうし、実際私の知り合いにもチャレンジした子はいた。

でも先輩はいつも断っていた。頭の中はバレーボールと勉強でいっぱいなんだと思っていた。
それなのに、どうして?どうしてユーハオなの?

でもとにかくユーハオといる先輩は本当に素敵だった。
二人並んだときすごく絵になるんだよね。
二人共鍛えていて本当にスタイルがいい。
生き方そのものみたいにいつも背筋が伸びて(撫で肩なのはご愛嬌)折り目正しい先輩、猫みたいにしなやかで予測不能な動きをするユーハオ。万華鏡のようにくるくる変わる表情。
全然違うタイプなのに、すごくしっくりくる。


あ、ちなみにユーハオとは隣のクラスで、彼が教科書を忘れたとき、たまたま廊下側の席だった私が貸してあげる、というベタベタなきっかけでたまに話をするようになった。

でも偶然じゃないよ、彼が忘れ物大王なのを知って、いつかそんなこともあるんじゃないかと廊下側入口近くの席を確保すべく頑張っていたからね。

ま、それはともかく(笑)先輩への思いを隠そうともしないユーハオを、あの切れ長の涼やかな目で穏やかに優しく見守っている先輩から、何かの拍子に熱いものがこぼれてくる。

それはもう恋だ。

二人の間に何があったのかは知る由もない。
ただバレー部の合宿の直後、図書室でぼんやりしている先輩を偶然見かけた。   


こんなとりとめもない話を書くくらいだから私は本が好きでよく図書室に行く。そして時々先輩を見かけて密かに喜んでいた。 

ここに来るのは勉強のためか、調べ物をするため。徹底した合理主義の先輩にしてはそれはとても珍しい姿だった。だって溜息とかついていたんだよ!

程なくして先輩とユーハオが一緒にいるところを前にも増してよく見かけるようになった。

そして気付いた。
二人の間を取り巻く空気が明らかに以前と変わったこと。

怜悧さとちょっととぼけた味わいが魅力的な眼鏡姿の先輩。
相変わらずそれこそバレーボールの球のように元気に先輩の周りを飛び回っているユーハオ。
一見とても仲の良い先輩後輩。

でもたった一度だけだけれど見てしまったんだよね。
ある日の昼休み。

あまり普段から人の来ない特別教室が入っている校舎の裏手の階段。

そこに二人は座っていた。数段高いところにユーハオがいて、必然的に少し下に来ることになる先輩の黒髪をごく自然に指で梳いていた。

先輩はと言えば、本当に無防備なほど嬉しそうに笑ってユーハオを見上げていた。
そしてユーハオは優しくトレードマークの先輩の眼鏡をそっと外した。
二人の傍らにはカルピスの缶、ただそれだけ。

なのにその瞬間二人を取り巻く空気が艶めいた。はっきり言ってしまえばセクシュアルだった。 
ああ、この二人の間にはもう誰も入れないんだな、とわかってしまった。


その時この憧れと嫉妬がないまぜになった気持ちに区切りがつけられた。


それからは二人を見かけるのが純粋に楽しみなった。日々の刺激と潤い。

夢に向かって真っ直ぐで、誠実な人達が思い合っている姿ってきっと周囲にも連鎖していく。
ささやかなことだけれど、私も前よりは勉強も頑張るようになったり、これまで読まなかった分野の本にも手を伸ばしたり。

ユーハオが料理が得意で先輩に食べさせてあげたこともある、と聞いて(何故か学校の調理室で?!)簡単なものだけれどやってみるようになったり。

そして月日は流れとうとう明日は先輩の卒業式。
寂しがり屋ですぐ嫉妬するユーハオには辛い日だよね。すぐ先輩に会うわけにいかなくなるよ。どうするんだろ。
あんまり駄々をこねて先輩に迷惑かけないようにね、と一人呟いてみる。

大丈夫だよ、ユーハオあなたと少しだけだけれど話すようになってよくわかった。
あなたの率直さ、情に厚いところ、理不尽には断固として立ち向かおうとするところ、そして悔しいけれどその美貌。
先輩みたいに自律心が強くて甘えることが苦手な人には、あなたの存在がどれほど救いになっているか。きっとあなたが思っている以上にね。


ツーシュアン先輩。
あなたの努力、誠実さ、聡明さ、大き過ぎる挫折から立ち上ろうとする姿、迷いがなく真摯な言葉(これはたまにしか聞けなかったけれど)
そしてユーハオを選んだということが示す世間や他人から押し付けられる「こうあるべき」に屈しない柔軟な信条。
遠くから一方的に見ていただけだったけれど、貴方に出会えてよかったです。

明日からこの場所であなたを見かけることはもうできませんが、先輩とユーハオの未来が光で満ちていますように。

この国の卒業の季節を象徴する鳳凰木。
今年もこの学び舎を巣立っていく先輩達を精一杯祝福するように、真っ赤に咲き誇っている。

その一枝を心のなかでそっとあなたに送ります。

一見クールだけれど、実は何事にも、もちろん恋にも情熱的な先輩にふさわしいと思うから。

さようなら。
今よりも少しだけでもよい自分になって、いつかあなたに会いたいです。