肩口の星

いつものように授業が終わったあと助手席にPiを乗せ家まで送り届けたMork。

いや、いつものようにというのは少し違うかもしれない。
お互い医学部と歯学部の実習が始まり、大学を出る時間が合わないことの方が多くなってきた。

なのでこうして二人一緒に帰途につけるときのMorkは更に更に言葉とスキンシップでPiを溺れさせていて、それでも名残惜しいのか駐車しエンジンを切ってからはずっと手を繋いでなかなか離そうとしない。

「Mork、もういい加減家に入らないと」
と困惑と名残惜しさが入り混じった表情のPiに言われ渋々Morkはゆっくりと手を離した。

「明日はまた時間が合わないからPiを送っていけないのに」
整いすぎるほど整ったMorkの顔は今や母親からはぐれた子犬のごとくしょげかえっている。

「仕方ないよ、お互いこうなるのはわかっていた学部だろ」
付き合い始めの頃からはついぞ考えられない諭すような声音でPiが言う。
そして車を降りてそのまま門へ入って行こうとしたPiが突然向きを変え、運転席の窓をコンコンと軽く叩いた。

「忘れ物か?」
と窓を開けて尋ねたMorkに
「そうとも言えるな」
と悪戯っぽく微笑んだかと思うとPiはMorkの頬にひょいとピチカートみたいなキスをしてびっくりしているMorkが引き止める間もなく身を翻し
「気をつけて帰れよ」
と早口で言うと今度こそ家へ入って行った。

返事も忘れてしまったほどの驚きからようやく少し人心地のついたMorkはエンジンをかけながら先ほどのPiの唇の感触とともにPiの肩越しに一瞬煌めいた星空を思い出し、ようやくいつも愛しい恋人といるときの軽やかで甘やかな表情を知らず知らず取り戻していたのだった。