傘の影の二人
6月はFUTS強化月間2023の企画に参加したお話です。
医学部の友人たちとショッピングモールで夕食を共にして別れた後
(そういえば)
とMorkは思い出し雑貨屋に立ち寄った。
先日朝から雨が降っていて大学の駐車場から校舎まで傘をさして行こうとしたら壊れていたのだ。
まあそこは学部、いやキャンパスきっての人気者の彼なので困っていることに気づいた友人に助けてもらい難を逃れたのだが。
色とりどりの花束のように店の一角に並ぶ傘たちを見やればやはり苦い後悔が胸に広がる。
(何であの日自分ではなくNanに傘を託したのか)
土砂降りの雨を前に呆然としていたPiの寄る辺なさに胸が痛み、でも自分が近づく勇気はなくてNanに頼んでしまった。
結果人の打算のない好意にあまりにも慣れていないPiはNanに恋してしまった。
それはもしかしたら恋にすらなっていないのかもしれないけれど。
とにかくそれからPiはNanに近づきたい一心で自分を変えようと懸命な日々。
そんな彼の力になろうとMorkは
「近くの学部の男」
と名乗りSNS上のPiの友だちとなるところまでは来たがそこから先があまりにも八方塞がり。
Nanの言動のあれやこれやに一喜一憂するPiの話を物分りのよいフリで聞いたりアドバイスするのも限界になってきた。
ならばと意を決して行動に移しいくらアピールしてもPiはまるで本気にしない。
何ならMorkが自分にNanを諦めさせようと画策していると誤解している有様。
単純なようで絡まってしまった自分とPiのことを灰色の曇天の心持ちで考えこんでいたMorkのその目に鮮やかな水色の傘がふと飛び込んできた。
それを手に取り動作を確かめるべく広げるとその一角だけ晴れ渡った空となる。
仮初めの空を見上げ少しだけMorkの胸に一条の光がさす。
どうしたところでMorkにPiを諦めるという選択肢はないのだ。
ならばいつかこの傘をPiに差しかける日を実現させるだけだ。
いつ訪れるかもわからないその時Piはどんな顔で自分を見るのだろう。
ライバルへの好戦的な眼差し。
自信なさげな上目遣い。
できることならばMorkの愛情をわずかでも意識してついこの間思わず触れてしまったあの柔らかな頬を朱に染めてくれたらいいな。
Morkは幾度目かの決意を語りかけるように傘を丁寧に閉じレジへと向かった。