テーブルの上のプロヴァンス

企画23作目🎄

FUTSアドベントカレンダー

 

 

大好きな映画

「マルセルのお城」

に出てくるクリスマスのお話を使わせてもらいました。

 

 

長時間に渡る手術やら、夜間の緊急呼び出しなどが続き疲労困憊の中迎えた休日。

Morkはどうやってベッドに入ったのかも朧気だったが、とにかく目を覚ましたとき明らかに部屋を照らす光は午後のそれだった。

(さすがに寝過ぎたな)

と我ながら呆れながらのろのろと起き上がりリビングに向かう。

 

するとソファに座っていたPiが読んでいた本から顔を上げ

「起きたのか」

「よく寝てたな」

と優しく微笑む。

「ごめん、せっかくの休みに」

しょげ返っているMorkに

「あれだけ激務が続いてたんだ」

「体が休息を求めてたんだよ」

とPiは隣に座ったMorkの顔をまじまじと見つめ、その長い指で明らかに濃い目の下の隈をそっとなぞる。

それはPiがMorkの体調を心配しているときの癖だ。

 

「食欲は?何か食べれそう?」

「うーん、今は軽いものがいいな」

「わかった」

そう言うとPiはソファから立ち上がり台所へ向かう。

 

お湯を沸かす音。

Morkの好きなブレンドのコーヒーの匂い。

それらに混じって聞き慣れない乾いた音がする。

 

程なくマグカップと大きめの皿を載せたトレイを持ってPiが戻ってきて、ソファの前のローテーブル置いた。

 

皿に盛り付けられていたのはバラエティ豊かなドライフルーツとナッツ類。

「これは何だ?」

Morkが不思議そうに尋ねると

「いや、この間お前も好きなフランス菓子のお店にクリスマスケーキを予約しに行ったらさ」

「これが置いてあったんだ」

プロヴァンス地方の伝統的なクリスマスのデザートなんだってさ」

 

その後のPiの説明によるとーーー

プロヴァンス地方では十二人の使徒とキリストを合わせた十三種類のデザートを食べる習慣があること。

どんなものを選ぶかは地域ごと、各家庭で違っていてずっと議論の種になっていること。

それでも「これは外せない」という基本のものがいくつかあり

「さすがに13種類は多いからお店の人と相談してベーシックなものを買ってきたんだ」

 

4つの修道会を象徴するドライフルーツ

・胡桃

・干し葡萄

・干し無花果

・アーモンド

それから

・ポンプ・ア・ユイル(オレンジオイルを使ったブリオッシュみたいなケーキ)

・白ヌガー

・黒ヌガー

・デーツ(ナツメヤシ)をマジパンではさんだお菓子

 

それらの名前を言いながら一つ一つを指差したPiは

「ま、説明はお店のパンフレットに書いてあったからまた読んでおいて」

とPiは言うと

「多めに買ったから明日から病院に持っていくといいよ」

「ドライフルーツやナッツなら時間がなくても食べやすいだろ、効率のいい栄養補給だ」

「異教徒でも忙しい医者が習慣を真似するんだったらイエス様も許してくれるさ」

顎を上げて得意げな顔をするPi。

 

Morkはひとまず胡桃と干し無花果を口に入れた。

果実本来の甘みを凝縮した味が疲れた体に染みわたっていく。

ましてやお日様のような優しいPiの気遣いのスパイスも配合済み。

 

明日からはまた腕利きでイケメンと評判のMork先生が病院内を颯爽と歩く姿が見られるはずだ。