それはのりしろだらけの恋模様〜Love Mechanics感想〜

「100万回生きた猫」で知られる絵本作家佐野洋子先生は、漫画家西原理恵子先生との対談でおっしゃいました。

「前の彼氏から次の彼氏に行くときカブる期間があるじゃないですか」
と西原先生
すると佐野先生
「あら、理恵子ちゃん、それはのりしろって言って気にしなくてよくってよ」

「のりしろ」蓋し名言!

そしてタイのBLドラマ「Love Mechanics」を観ている間ずっとこの「のりしろ」が頭を巡っていました。

これから後はドラマの内容に踏み込んでおりますので、万が一未見の方がいらっしゃいましたらご注意くださいませ。










作品について軽く説明しておきますと、この「Love Mechanics」(以下ラブメカとしますね)は「En of Love」というシリーズ3部作の2番目に当たります。

1作目の「TOSSARA」の主人公カップルのうちの一人Bar先輩に見事にふられてしまった工学部の大学生Mark。そんな彼がショックのあまりバーで泥酔しているところに、たまたま居合わせた同じ工学部の先輩Vee。

前後不覚になってVeeに迫るMark。そんな彼に思わずキスしてしまうVee。そして二人は一夜を共にすることになり…


粗筋だけ説明すると、体の関係から始まる愛はあるのか、という古今東西数多の作品で描かれてきたテーマですね。
はっきり言って新鮮味はない(毒舌)

でもですよ!主人公の二人が本当に魅力的で、ついつい物語に引き込まれてしまう。

先輩Veeに扮するYinくんは、切れ長の目とまだ少年っぽい柔かな頬の線が印象的な誰もが認める男前です!タイドラマでお馴染み大学ミスターコンの優勝者のムーンなのも納得。背も高くてスラッとしていてスタイル抜群。
工学部の制服青のワーガシャツが似合うこと!というか何着ても様になる天性の才能の持ち主。
Markをからかうときの悪戯っぽい表情は絶品です。後自分の感情を持て余して涙にくれる姿は、後述しますが「あなたそれ自業自得!」と説教したくなりながらも、頭を撫でてあげたくなるいじらしさ。

そしてなんと言っても、Markを演じるWarくんですよ!
ラブメカで初めて知ったのですが、タイBLの役者さんは皆さん総じて演技力が高くて驚いてばかりなのですが、Warくんはずば抜けて上手いと思う。
透き通るような白い肌(水泳部なのに)と一度もカラーリングしたことのなさそうな癖っ毛ぽい黒い髪。知性も蠱惑もおまかせのアーモンドアイ。

演技へのアプローチが多分とても好みというのもあるでしょうが、いやホントすごいです。
これはTwitterで見かけたのですが、台詞を言う前の間や視線がとても自然で、しかも途方もなく色っぽい。

物憂げで一見とらえどころのない雰囲気のMarkですが、Veeの言葉一つで嬉しさがこらえきれず微笑むときの愛らしさ!実はとても一途なんですよねえ。
そりゃP'Veeも彼女がいる身ながら惹かれてしまうよね、と納得です。

映画やドラマが成功するときって脚本が役者を引っ張り上げたり、どちらも高い水準で相乗効果を上げたり、と様々なパターンがあると思うんですが、このラブメカは圧倒的に役者の力で押してくる作品です。
脚本が良くないわけではないですが。
後本当に素人なんで、詳しいことはわからないんですが、撮影技術というか映像の切り取り方は素敵です。さすがP'New!

さて、そんなこんなで始まった二人の関係ですが、そりゃあ二人共恋愛ヒエラルキー最上位者なので(本人たちの自己認識はともかく)、Veeは関係が破綻しかけている恋人のPloy(彼女も他に好きな人ができてしまう)を清算しようとしてかえってMarkに誤解されてしまうし(具体的にはPloyとのお別れのキスをMarkに見られてしまう、ホントばか!)
悲しみのあまり意地になったMarkは元彼と急接近するし、でこじれる一方の二人。

こうやって書いていてもイライラしてしまう展開なんです(笑)
けれど繰り返しますが主役二人の演技がとにかく良いので、このあちこちでのりしろが発生しているこの物語を終わりまで見てしまいます。
 

何というか人の心は、特に恋愛になるとどうしてこうもままならないのか、という切なさ哀しみ、もどかしさがVeeMarkの瑞々しい表現から立ち昇ってくるのです。

後確かに二人共恋のお相手に不自由しないタイプですが、駄目な部分もあるし等身大の大学生らしさがあるのもいいです。

特に好きな場面はやはり?恋人Ployの心変わりを送られてきた画像(しかしいつもながらどうなっているんだ?タイのSNS事情)で知った夜の翌朝、VeeがMarkの部屋を訪ねるところ。

「一緒にいてくれない」
と言うVee
「それについてはきちんと話し合わなくてはいけませんね」
とMark。ここがもう彼らしさ全開で本当に好き。一筋縄ではいかないというか、何とか恋心を理性で征服しようとする感じ。

でも疲れたからと、二人並んで座ったベッドでVeeが頭を肩にもたせかけると嬉しさがこらえきれないMark。
ほんの少し口角が上がっているだけなのに高揚している気持ちが伝わってくる。Warくんスゴイ(何度目)

そして授業になんか行かずにそばにいてくれ、と懇願するVeeの顔をじっと見つめるMark。
その視線がVeeの唇に落ち、そして自分の方からキスして言うわけです。
「僕といるときは彼女のことは考えないで」 
これは落ちるよね、もう手放せないよね、Vee(笑)
またねえ、このMarkからのキスの後、とてもゆっくり名残惜しそうに唇を離すんですよねえ。
だから今度はVeeの方からキスしてしまうのも
再び寝てしまうのも、ええ、自然でしたよこの流れ(朝からね、全く!)

ここら辺りが、二人のプライベートビデオを許可なく覗いているみたいなうっすらとした背徳感をこちらにもたらし、なおかつ溢れはじめた初々しい恋心も見せてくれるという贅沢さ。

二人の清潔感のある品のいい佇まいも、やきもきしながら応援したくなってしまう重要な要素です。


ラストも可愛くてよかった!
やっと気持ちが通じ合った二人。
いつも何事もどうでもよさそうな表情のMarkが本当に嬉しそうに無邪気に、教室一杯に広がるVeeが設えた青い星空を眺め、そんな恋人をこの上なく愛しそうに見つめるVee。

皮肉っぽくて理知的ででも一途なMarkと、自らの優しさに絡め取られることがありながらも、きっとMarkを手放せないVee。

これからも多少すったもんだはありそう、というか絶対にあるな(笑)という二人ですが
どうかお幸せに、と心から願ってやみません。 

そう思いたくなる、本当に現実の世界に生きていそうなVeeMarkを作り上げたYinWarのお二人に心からの感謝を。

あ、主題歌も美しくてドラマの世界観にぴったりで大好きです。

https://youtu.be/BKYP3U3aF70