君へ続くそりの道
FUTSアドベンドカレンダー
企画18作目🎄
少しだけビター?なお話なのでなんとなくはてなの方にしました。
何だかんだでほぼMorkと画像や動画を共有するためにしか使っていないインスタグラムに珍しく新着メッセージの知らせがあった。
Morkと付き合い始めた頃はそれこそ自分の過去の画像や個人情報を晒されたり、嫉妬や嫌がらせもしょっちゅうだったが、最近はすっかり落ち着いていたので油断していたといえばそうだったかもしれない。
とにかく講義と講義の合間になんの気なしに開いたその先にあったのはーーー
高校の制服姿の、今よりも幾分幼い、それでもやはり華のある整った容姿のMorkと、そんな彼の横に立っても「お似合いだ」と多くの賛同が得られるに違いない自信に満ちた表情の同じく制服を着た知的な美しい少女だった。
それだけでも口の中に苦いものが広がるのにご丁寧に
「今年のクリスマス彼と一緒に過ごすのは誰かしら」
と挑発的な一文が添えてあった。
スマホの画像の後ろには見覚えのあるショッピングモールの大きなツリー。
何なら昨日の放課後もその前を通りMorkと夕食を食べに行ったところだ。
それからの講義の内容がPiには極めてまれなことに何も頭に入らなかったのは当然だったろう。
「Pi、Pi」
低くよく響く声がしてPiは自分がぼんやりしていたことに気がついた。
見渡せば照明を落とされた薄暗い講義室にはPi以外誰もいなかった。
眼鏡からコンタクトに変えて久しいのに、鼻あてを持ち上げるような仕草をしかけて
「あれ?Mork?」
やっと焦点が合い、心配そうに自分の顔を覗き込むMorkの顔がはっきり見えた。
「ああ、Morkだ」
その声Piのがひどくあどけなくて、でもあまりにもか細くて。
元々いい方だが、ことPiのことになると俄然高速に研ぎ澄まされるMorkの勘がよろしくない兆候を寸分違わずとらえる。
隣の席に座りいつもより華奢に感じられるPiの指を優しく握る。
「何があった?」
その問いにPiは
(『何か』じゃなくて『何が』なんだな)
講義が終わったことにも気づかないくらい落ち込んでいたはずなのに、そんなことで気持ちが上向きかける自分のことが我ながらおかしくなる。
「何でもないよ」
「期末試験の勉強で疲れているのかな」
そしてわざとおどけるように両のかいなを幼な子のようにMorkに向け真っ直ぐ突き出し
「だから立ち上がらせてくれよ」
と聞き分けのないことを言いつけ、そんなPiの様子に思うところがあったのか、Morkはそれ以上問い詰めようとはしなかった。
で後の顛末は、というと。
くだんの女の子は同じ画像をMorkにも送り付けていて、さすがに添えた言葉こそ違ってはいたが。
「私たち、やり直せると思わない?」
「今の彼氏、本気じゃないんでしょ」
若さというのはときとしてあまりに怖いもの知らずなのかもしれない。
彼女に対してMorkがどんな返事をしたのか知る者はいないが、その後一切接触してくることはなく、あまつさえ程なく海外の大学へ交換留学したとの噂。
Pi専属のサンタクロースは自分が乗るそりの行く手を阻むものにはことさら容赦ないのだった。