答えは甘噛み

宮野さんの素敵なフリー素材をいただいてお話にしました。
書いているときのBGMが美しくも少し禍々しい曲だったせいか、もっと清純派?になるはずだったのに違ったかも(笑)

『ヌーヴォーロマン』アーバンギャルド

https://music.youtube.com/watch?v=10Zk1t0L-nk&feature=share






少々の腕の痺れを感じてMorkは目を開けた。
(喉渇いたな)
もちろんその原因の大半は隙間なく寄り添って、いたいけな顔で眠る人。

何度体を重ねても飽きることなんかなくて、むしろその行為のための準備にPiが手慣れてきた事実だけでも熱くて深い情欲が湧き上がる。
それを恥ずかしいと思ったことはないけれど、カーテン越しの白っぽい光が自室の隅々まで詳らかにするこの時間にはさすがに憚られる気がして、そろりとPiの小さな頭の下から腕を抜き、ベッドの下に足を下ろし、冷蔵庫に向かおうとしたそのとき。

MorkのTシャツの背中側の裾が引っ張られた。
もちろん、そんなことをするのはただ一人。

「おはようPi。どうした?」
首だけねじってPiの方へ向く。
できるだけ優しい手触りの声音にしたつもりだったのにやはりザラザラとしてしまう。
「別に」
Piの口ぶりはまだとても眠たげで、かつぶっきらぼうだ。
なのにMorkの服を掴む手を離す気配はないし、視線はじっとMorkにあてられたまま。

Piの大きな特徴であり魅力の一つの切れ長の目元はいつもの賢しらさや涼しさの代わりに、昨夜(正確には明け方)の延長線上のように艶やかで物欲しげでもあってMorkは戸惑ってしまう。

(無自覚は罪)
何かの曲の歌詞のような一節がMorkの頭に浮かぶ。

そして体ごとPiの方に改めて向き直り身を屈めると唇に軽やかなキスを一つ落とす。

ほんの一瞬驚いたように目を見張ったPiだが、すぐに控え目ながら満ち足りたように微笑み何ごとか囁いた。

その声はMorkと同じく掠れていて聞き取れなかったので
「ん?何か言った?」
と一旦は離れたPiの顔にもう一度耳を寄せ尋ねたが、この恥ずかしがり屋の恋人に返事はもとより期待していなかった。

なのにーーー
「正解」
ごく小さいながら、でもはっきりとそれは子猫の甘噛みのような愛らしい痛みを伴ってMorkの耳に響き渡った。

その後冷蔵庫まで水を取りに行ったMorkが恐ろしく素早くベッドまで戻ったのも当然のことではあった。