クリスマスツリーの余白

推しCPに幸せなクリスマスを過ごしてもらうことが幸せなのです(笑)






いわゆる物欲というか、
「あれをしたい、ここに行きたい」
と自分から言い出すことも殆どないFolk。

そんな彼がやけに颯爽と
「Pure、明日はクリスマスマーケットに行こう」
と言い渡したのが十二月最初の金曜日の夜だった。
(珍しいな)
とは思ったが、まるで学芸会の劇に出演する直前の小学生のような意気込みが一見淡々とした表情の下から見え隠れして、可愛くてたまらない。
もちろん何の異存もない。

そして買い物日和と言って差し支えない次の日、PureとFolkは市内の人気の商業施設に期間限定で設けられたクリスマスマーケットにやってきた。

家族連れ、恋人たち、友人どうしなどの人々がサンタやトナカイ、イルミネーションなどに彩られた中をそぞろ歩いている。
どの顔も浮き立っていて楽しそうだ。

そしてFolkはと言えば、目的のところがあるのか昨夜の続きのような迷いのない凛々しい足取りでどこかに向かっている。

「着いた、ここでツリーを買おう」
二人の前にはお洒落なお店揃いの他と比べても一際落ち着いてエレガントなオーナメントがそろった出店があった。

「寮の部屋に飾るからそんなに大きな木じゃなくていいな」
とどちらかと言えば普段おっとりしているFolkがテキパキと決めていくのを少し不思議な、でもとても暖かい気分でぼんやりと眺めているPure。
(昔映画か絵本で見た暖炉のそばってこんな感じなんだろうか)

そんな彼にどうかしたか?と首をかしげながら
「Pure、好きなオーナメント選んでよ」
と一際柔らかな声で言うFolk。
その眼差しはとても穏やかで、しかしいつもの秘めた熱っぽさはなくてただただ大切なものをそっと包むかのようだ。

その恋人の瞳の色を見つめ返して気づいた。

家族、と言っても母と二人きりの家庭で育ったPureにとっては彼女が全てだったが、と家のテーブルでクリスマスディナーを囲んだことも、ツリーを飾ったこともほとんどなく、クリスマスの朝枕元にプレゼントが置かれていたことは一度か二度あったかどうか。

熱心な仏教国であるこの国でクリスマスの行事が盛んになったのは比較的最近のことだけれど、それでもPureの年代だと学校の同級生たちが当日の予定や、何をサンタさんにお願いしたとかを話しているのを耳にすることは多かった。

それから一晩の相手に不自由しない年頃になるとその場限りの人間と意味もなくはしゃいで見せ、Folkにはできれば知られたくない乱れた夜を過ごしたこともある。

Folkは何も尋ねないけれど、きっと折り目正しく祈りに満ちたクリスマスをPureと過ごしたいのだ。

そして二人はあれこれ相談しながら選んだ品々を抱えて寮に戻ると早速飾り付けに取りかかった。

何を着てもファッショナブルなことで定評のあるPureは流石にこういうことも得意で、要領よくセンスよく樅の木にオーナメントを配置していく。
Folkは持ち前の冷静な判断でこれまたバランスがいい。

全体的に白と金で統一したとてもシックなツリーが出来上がってきた。

「これはお前が飾って」
と大きめの金の星、いわゆるトップスターをFolkがPureに手渡す。
「いいのか?」
Pureが意外そうに確認すると
「最初からそのつもりだけれど」
と何を当たり前のことを聞くのだと言わんばかりのFolk。

するとPureはやけに厳かな真面目な手つきで木のてっぺんに輝く星を置いた。
ふとFolkの方を見ればこの上なく嬉しそうで、それでいて少しやるせない表情だ。

それでもPureと目が合うと
「最後はこれだな」
と微笑みながらこれだけは赤、緑、金、銀色、ピンクとメタリックでカラフルなオーナメントボールがたくさん入った箱の蓋を開けた。

「何色がいい?」
ここでもFolkは徹底的にPureを優先する。
「うーん、これくらいはクリスマスカラーの赤にするか」
「じゃあ俺も緑で」
各々一個ずつ手に取るとFolkはさっさと箱の蓋を閉めてしまった。

「一個ずつだけなのか?」
少し驚いてPureが尋ねると
「今年は一個ずつ、来年はニ個、一つずつ増やしていこう」
自分の話している内容に照れたのかFolkの顔が少し赤い。
ともすればPureから視線を外しそうになりながらそれでも静かな覚悟を決めた面差しで見つめてくる。

Folkと付き合い始めたときから大袈裟でなく毎日のようにその幸運に感謝しているPureだけれど、こんなにも途方も無く深い愛情を注がれている事実を目の当たりにすると、まるで全く知らない演目の芝居に出演しているみたいだ。

「じゃあこれがなくなるまでは一緒にいる気なんだな」
とこちらもあまりの幸せに照れ隠しにふざけながらPureが言うと
「そのつもりだけど。お前はそうじゃないのか?」
あまりにも重大なことを無造作に口にするのはFolkの癖だ。
(ずるいぞ)
心の中で甘い抗議の声を上げながらも
「ボールがなくなってもお前のそばに居続けるぞ、俺は」
と切り返したPureをきっとサンタクロースはほめてくれるだろう。

「何言ってるんだ!」
Folkの色白の顔の朱がますます濃くなる。
そんな愛する人の様子とまだまだボールをたくさん吊るすことができそうな緑の木を交互に見つめるPure。

(やっぱり俺は運がいい)
きっと今年のクリスマスはきっとこれまでの中で一番ささやかで優しくて豊かな時間となると確信し、Folkにありったけの感謝を込めてキスするべくPureは一歩足を踏み出した。