代わる代わるの指輪

5月23日はキスの日ということなので。






先にシャワーを済ませ、ヘッドボードに背中を預けて本を読んでいたMorkの横に仄かにシャンプーの香りを纏ったPiが滑り込んできた。
何の気負いもない流れるような動作。
それでも主に夜勤など不規則な勤務体系の医師のMorkと、今は大学で研究者として働いているPiの二人にとってはこの当たり前の夜がなかなかに貴重なのだ。

そしてサイドテーブルにごくシンプルなプラチナの指輪を通したこれまた華奢な同素材のチェーンを置いた。
その星が瞬くような月明かりが微かに軋むような音が合図となって。
Morkは傍らに本を置くとそっとPiの左手を取りほっそりとした薬指の付け根あたりに恭しくキスをする。

「寝るタイミングが同じときにはいつもそれをするよな」
Piの少しだけ呆れた声の響きはかえって愛おしさを強調する。

「本当だったらいつもつけていてほしいけど職業柄そういうわけにはいかないだろ」
わざとらしく恨みがましい上目遣いでMorkはPiを覗き込む。
するとPiはやれやれとばかりに微笑むとブランケット越しに自分の膝を叩いた。

「俺は猫かよ」
それでも猫というよりは大型犬のように忠実にはしゃぎながらPiの膝に頭を乗せる。

見上げればそこにはいたずらっぽい瞳の色をしたPiがいてMorkの左手の薬指をなぞり持ち上げたかと思うと
「いつもしてたらここら辺に跡がついているものなんだろうな」
と言って見えない痕跡に静かにキスをした。

一瞬Morkの顔からあらゆる表情が抜け落ちる。
その後はやおら起き上がるとPiを強く強く抱きしめ
「Pi、可愛い!何でいつまでたってもそんなに可愛いんだ」
「でも明日も仕事だからこれ以上何もできないし」
などと愚にもつかない言葉を羅列して
「早く寝ろ」
とPiにごく軽くではあるが額をはたかれたMorkではあった。

そんな二人を並んだ2つの指輪は溜息をつきながら見守るかのように時々光を零していた。