I told sunset about you 感想②(第4話)

ITSAY 感想第2弾です。

4話、5話は一層密度が濃いので、今回は4話のみについて書きます。

以下いつものごとくネタバレ満載ですのでご了承ください。そして長い。いつも長いとしか言っていませんがそれにしても長いです。

























辛い、辛いなあ、基本辛いしか言ってないな、4話。

あ、いきなりすみません。

感想を書くために見直したんですが、この胸を締め付けられる苦しさは一向に和らいでくれません。

気を取り直して書いていきますね。



3話終わりのあの気まずい夜の少なくとも数日後くらいなのかな、Ohはまた中国語の勉強のためにTehの家を訪れます。

一見何気ない風を装っていますが、どうしたってぎこちなくなってしまう二人。

そしてなんともいえないタイミングで日本に出張に行っていたTehの兄Hoonが恋人のツアーガイドNozomiを伴って帰ってきます。

もう大喜びのママ!

夕食の席で
「息子のどこが好きなの?」「孫の顔が早く見たいわ」
とはしゃいでいます。

そして矛先はやがてTehへ。
HoonがTehにもTarn という彼女がいるはずだ、家にも来たことがある、と言うととても嬉しそうなママ。そしてあろうことか!(いや、ママは何も悪くないんですが)Ohに
「TehとTarnが(晴れて)恋人になったら教えてね」
と言います。
ずっと一連の会話を複雑な面持ちで聞いていたOhはそれでも穏やかに
「もちろんです」
と答えます。このときのOhの気持ちを考えるとただもう遣る瀬無いです。

母親がいわゆる従来の家族観を持ち、それを息子たちに望んでいることを改めて見せつけられた格好になったTeh。
「息子たちは私をがっかりさせたことなんかないわ」 
その言葉は確実にTehの胸を抉ったでしょう。
彼は家族をとても愛しているから。

そしてTehがバイクでOhを船着き場まで送っていく途中に二人はTarnを巡って、いえ、それはあくまできっかけに過ぎず、自分たちの関係について沈みがちな会話を交わします。

Tarnが家に来たことを知らなかった、と言うOh。
たいしたことじゃないから言わなかった、とTeh。

そして最近Tarnとはどうなの、との問いに、割と良い感じだよ、と答えてしまうTeh
今にも泣き出さんばかりのOh。

これが恋愛も含めた人生の分岐点なら、ここら辺りからTehは少しずつしかし確実に選択を間違えていきます。

そしてある日の昼間、美術系の大学を志望しているTarnが入試科目であるデッサンの練習をするのに付き合うためTehは彼女の家を訪れます。

これまでもよくデート代わりのように海岸など行われるTarnのグループでのデッサンに付き合っていたTeh。

芝生の庭に紫色の敷物を広げ、二人並んで座りTarnはデッサンを始めます。

今日は家には誰もいないから遠慮せずくつろいで、というTarnは紫色のハイビスカスが刺繍されたブラジャーを身に着けています。それは以前制服のブラウスのボタンが外れていたとき、その隙間からTehが思わず見てしまった時と同じもの。

紫はTarnを象徴する色で、また彼女はTehとの仲を性的なことも含め先に進めたいと願っている。

それなのにTehはスマホを片手にどこか上の空。
そんな態度に何となく不安を感じつつも、Tarnはスケッチブックにハイビスカスの花を描き、そしてTehに好きな色を塗って、と頼みます。

ここでまた緊張感漂うピアノの旋律が流れ、これはTehがOhとTarnのどちらを選ぶのか、と迫られていることがわかります。

果たしてTehは赤、Ohを表すその色を選びます。
選ばれなかった紫の色鉛筆が大写しに。

それを見たTarnは悪態をつき、ノースリーブの服の上に慌ててパーカを着込み、自分の感情をぶつけます。

あなたは前みたいに私に関心をもっていない
友達のためになら朝の4時に起きて中国語を教えるのに。
勉強会から帰ってきたらすぐに連絡するって言ったのにそれもしてくれない。
友達と一緒にいたければそうすればいい、どうしたらいいかは自分でわかっているでしょう!



Tarn役のSmileちゃん、素晴らしい熱演でした。
大きな声で激しく詰るのに嫌悪感はまるで感じさせず、愛している相手が目の前にいるのにその視線が自分を透過してしまう辛さ、情けなさがいじらしいほど伝わってきました。

返す言葉がないTeh。 

「自分でも自分自身に何が起きているのかわからない」
というのが精一杯。

そこへタイミングがいいのか悪いのかOhから連絡が。
いつもより早くお前の家に着きそう、と。

ほんの少し迷いますが、結局TehはOhのところへ。



場面は変わって二人はTehの家ではなくカフェで勉強しています。

どうして今日は家ではないのか、と尋ねるOh。
重ねてなぜ自分のラインのメッセージに返事をくれなかったのか、とも。

実はこの朝いつもの4時にTehからの連絡がなく、Ohはまだ起きていないの、と尋ねています。

それに対して
「毎日必ずお前のメッセージに返事しなきゃいけないのか!俺にも他にやることがあるんだ!」
とか何とか理不尽にも声を荒らげるTeh。
TarnからもOhからも問い詰められて混乱していたのでしょうが、元はと言えばそれは彼自身の迷いや逃避の写し鏡。

そんなTehを見てOhは、
「お前がしたくないんだったらそれでもいいよ。でもそれなら最初からこんなことしないで」
と言い、勉強の途中で帰ってしまいます。



ここからのTehは「今あなたがやらなければいけないのはそんなことじゃないでしょう」という言動の連続。

気まずいまま受けた塾の小テストでまたまた低い点を取ってしまったOh。それを知ったTehは
「俺にできることは何でもするから。お前を手伝いたいんだ」
と言います。しかしOhは
「お前に俺の気持ちなんかわかるわけない、俺は傷ついたんだ」 
と目に涙を溜めて言って立ち去ります。

するとTehは自分のテキストを切り貼りしてオリジナルのイディオム集をつくり、その画像をインスタグラムに上げます。

そしてそれをOhが見てないことを知ると、いてもたってもいられず彼の住むリゾートホテルへ向かいます。

ホテルの従業員を介してイディオム集を届け様子を伺うTeh。

ここら辺から、画面はずっと海に面して開かれたドアの向こうを室内側から固定して撮っています。

つまりドアが額縁代わり。その絵の中にTehの姿が出たり入ったりします。彼のその落ち着かない気持ちが、距離があるので表情ははっきり見えないのに如実に伝わってきます。

この手法は作品を通して大事なときによく使われて、強い印象を残します。

Tehのお手製のイディオム集を二階の廊下で複雑な表情で見つめるOh。
それを一階のドアからそっと覗き見るTeh。

画面が切り替わり、Tehに気づいたOhが一階に下りると二人は互いの顔が触れんばかりに近づき、Tehの方からキスしようとします。でも顔をそむけるOh。Tehの気持ちを信じきれていなかったのでしょうか。

そして階段下の物陰に隠れてやっと抱き合います。Ohは水色のTシャツ。Tehは同じく水色の地に花柄が描かれたシャツ。一貫して青系が基調の場面が続きます。おでこを合わせる姿が可愛かった。ここまで二人共ほとんど無言。絡み合う視線と繊細な表情の変化でのみ交わされる会話。もう呆然とする演技力です。

そしてやっと一言
「泳ぎに行かない?」
とOh。

その後海に仰向けに浮かんでいる二人の姿が。やがてそろって海に潜り、とうとうキスをしたTehとOh。穏やかに微笑み合う様子は初々しい恋人同士そのもの。



なのに砂浜に上がるとTehはOhに言うのです。
「友達のままでいよう」
それだけは、それだけは言ってはならなかった。
案の定、もう立ち直れないほど深く深く傷ついたOh。
「友達ならなんでさっきみたいなこと(海中でのキス)をしたんだ」
「もうお前は友達なんかじゃない」
ついさっきまで二人を優しく包み込んでくれていた海の青が、今はもうよそよそしく見えてしまいました。

二人別れたあと。
Tehは野菜の仕入れから帰る途中の兄のバイクのサイドカーで。

Ohはソファにパパとママに挟まれて座った状態で。

各々身も世もないほど泣きじゃくります。

役を離れたときや、そして雑誌のグラビアなどを見ると、BKPPは二人共ハイソサエティに属しているんだろうな、というのがよくわかる雰囲気に溢れているし、なんなくハイブランドを着こなしているし、とても理知的でスタイリッシュ。

しかしここの泣いている姿の不格好さ。プーケットの町に生まれ育ったどこか素朴さのある高校生そのもの。もちろん十分学校の中で一軍なんだろうな、とも思わせますが(笑)
この微塵も自意識を感じさせない、ひたすら役を生きている姿に何か敬虔な気持ちすら覚えました。

Tehは大量の野菜に埋もれて。Ohは両親に慰めてもらいながら。

幼子のように涙と鼻水で顔はひどいことになっています。

その日の夜も更けた頃、部屋の中一人上半身裸で姿見の前に立つOh。そしてクローゼットから赤いブラジャー、多分母親のものでしょうか、を取り出し身に着けその姿を自撮りし、インスタグラムに上げます。すぐにはっとしてそれは削除するのですがその後のOhの、PPくんの演技が凄まじかった。

ブラジャーをした自分をいくら眺めても女の子の柔らかな膨らみとはかけ離れた平板な胸。それに絶望したようにブラジャーの後ろのホックを外そうとするのですが上手くいかず、焦れたように結局足の方から乱暴に脱ぎ捨て、床に泣き崩れます。
このホックがすんなり外せないというのがとてもリアルで痛々しかった。

Ohはおそらく女性になりたいとは思ってはいないし、同性愛者の自分もある程度は受け入れていたと思います(Basへの恋する気持ちなど、ここまでの描写でそう解釈しました)。
ただこのときは、このときばかりは愛する人の求める性にはなれない、という事実に殴られうちのめされた。

そしてすぐ削除したOhの写真は仲間の一人の目に止まり保存され、Tehに送られます。それを見たTehは明らかに性的興奮を覚え自慰行為を始めます、泣きながら。その視線の先には中学生の頃から憧れている中国史劇ドラマの男優(敢えてそう書きます)のポスター。

直後TehはTarnを訪ね
「まだ俺を愛しているか、それならそうと言っくれ」
と悲痛な面持ちで執拗に迫ります。混乱しながらもTarnは
「愛している!」
と叫ぶように答え、縋るように抱きしめてくるTehに
「一体何があなたに起きているの?」
と問いかけます。
ここでのTehは自分は女の子が好きなはずだ、と無理矢理Ohへの思いを押さえつけていたのでしょう。
でも考えずにはいられない。ここでTarnではなくOhのところへ駆けつけていれば、と。

Tehは異性愛者だと思っているOh。
男性のOhの写真に欲情したTeh。
何もそこまで、しかもこの時点で徹底的にそれぞれの恋とセクシュアリティの相克をを突きつけなくても、と心がしんと凍った。
それがこの作品に凄みと深みをもたらしているとは言え。

精神的に立ち直れないOhは大学受験ヘの意欲も削がれ、学校も中国語塾も休んでしまう。

自宅でぼんやり過ごしているところにBasが中国語のプリントを持って現れます。



賢く勘もいいBasはOhがこんな状態となった原因がTehであることをすぐに見抜き、泣き出したOhを優しく抱きしめます。でもすぐにOhは部屋の中に入ってしまい、取り残されたBasをまた画面はドアの枠で囲って映し出します。部屋の中はそのままOhの心の中。それを前に立ち尽くしているBas。どうやっても彼の気持ちはOhには届かない、ということなのでしょうか。切ないです。





もうここからの展開は口にするのも一層しんどい。

推薦入試に合格したバンコクの大学に最終的な入学手続きに行ったTeh。いよいよ書類にサインさえすれば、という段階で彼は逡巡します。
祈りましたよ、Tehサインしてって!
またここでも不穏なピアノの旋律が流れてきて、胸がキリキリしました。どう考えてもそれは最悪の選択。でも結局彼は権利を放棄してしまいます。

なぜならTehは知っていたから。Ohがコミュニケーションアーツ学部の推薦入試の補欠合格者のリストの一番目なことを。つまりTehが辞退すればOhが繰り上がり、正式に合格することになるわけです。

実はその日の早朝プーケットを発つTehをいつも友人たちが見送りに来ます。そしてOhの最近の投げやりな様子、大学受験を諦め、家業のホテルを継ごうなどと言っていることをBasから聞かされてしまうのです。
なんでここで言うの!と、内心血の気がひきました。本来の思慮深いBasなら決して告げなかったはず。これも苦しいOhへの恋心ゆえ、と思うと責めきれない。

やがて失意のOhのもとに大学から繰り上げ合格を知らせる電話がかかってきます。文字通り飛び上がって喜ぶOh。すぐに仲間のグループラインに知らせます。
しかし仲間の一人の書き込みにハッとするのです。
「お前はラッキーだな。でも誰が辞退したんだろうな」

場面変わってプーケットに戻ったその日の夜、Tehは家の食堂で母が設けた合格祝いの席にTarnや、兄のHoon、Nozomiと一緒に座っています。

息子が大学生になることを誰よりも喜び、その優秀さを自慢し、上機嫌の母。
いよいよ追い詰められるTeh。Tarnは異変に気づきます。そしてすぐ隣のTehにラインで
「合格を友達に譲ったの?」 
と尋ね、それを見たTehはたまりかねて席を立ち、自宅側に引っ込みます。

それを追いかけてきたTarn。

今すぐに家に帰ってくれ、ほうっておいてくれ、
と懇願するTehに彼女は一歩も引きません。

「あなたは私を傷つけたけれども、それはもうどうでもいい」
「でもあなたは今自分自身を傷つけている」
「あなたがまず謝らなきゃいけないのはお母さんにでしょう!」
Tarnは気丈な子なので口調こそきついのですが、自分のことと同時に相手のこともきちんと考えられる聡明さがあります。だからこそその言葉は石の礫となってTehにぶつけられます。

そんな二人の異変に気づき母と兄とNozomiもやってきます。

そしてとうとうTehは自分が推薦合格を辞退したことを告白しその場は嘆き、絶望、などなど様々な感情が入り乱れ大変なことになってしまいます。

泣きながら自室のベッドへ身を投げ出しスマホを見れば、TehとOhを心配する友人たちのメッセージで溢れています。
窓には母が用意した大学の制服の白いシャツとネクタイ。

ベッドには兄からの学費が入金されている通帳。
Tehの心から血が吹き出していたことでしょう。

ここから優れて今の時流を反映した表現技法で二人の心理が綴られていきます。

拙文で伝わるかどうかわかりませんが以下書いていきます。

それはインスタグラムのストーリーを使ったもの。

「俺が決めたことだから。みんなありがとう」
(Teh)
するとOhからはTehの作った教材のあるページの画像が。そこには
「'Ban Dao Mang'〜妨害〜」
そして次々にテキストや、他の部屋にあるものなどを使って息詰まる中国語の画像での会話が続きます。
「'給'〜譲る〜」(Teh)
「いらない」(Oh)
「ばかだな!人の善意に気付けないのか!」(Teh)
「やってやる!俺は受験する!」(Oh)


ここへ来てやっと取り返しのつかないことをしてしまったことを悟り号泣するTehと、決意を秘めた悲痛な表情のOhを交互に映し出します(真正面からしかも信じられないくらいの至近距離で)。やっとの思いでTehはテキストを開くもののそこにはOhのために切り抜いた穴だらけの役に立たないページが続くだけ。それに突っ伏すTehを横からのアングルでとらえ、4話は終わります。




この4話ではどんなに苦しくても、幼くて未熟でも、年老いて疲れていても、真実の自分から逃げ続けることは人生において一番罪深いことなのだ、と静かに厳然と宣告されたように感じました。

オリジナルの教材を作り出したあたりから、Tehの言動には全てOhの愛に思い切って応えられない罪悪感が根底にあります。それが彼の視界を暗幕のように遮り、自分の気持からもOh自身が考えていること、望んでいることも見えなくしています。

最初にこの作品は、何度崩れてきても誰にも取って代わることのできない自己を確立する物語だ、と書きました。
ここで一旦Tehの自己は瓦解してしまった。
それを象徴するのが、あの穴だらけのテキスト。時間は巻き戻せない。
ここからTehは唯一無二の誤魔化しのない自分を掴み取ることができるのか。
そしてあらゆる遮蔽物を取り除いてOhを愛する気持ちを見つめ直すことができるのか。

それにしてもこんなに綻びだらけのTehに説得力をもたらし、観る側の共感を引き出すBillkinくんには脱帽するしかありません。

いや、どうしたってOhはBasとの方が幸せ、いえ、幸せと言えないまでも穏やかで優しい未来が送れそう。

OhにBasを選んでほしい、そしてTarnにTehはやめておきなさい、と言いたくなる視聴者は少なくないでしょう。BasもTarnも凛として美しく、自分に正直であろうとするとても魅力的な存在ですから。

でもTehとOhが惹かれ合うことを止めることは誰もできない、二人の間に横たわる愛はあまりに圧倒的、と自然に思わせてくれるその演技。いや、演技というか、プーケットの町にいるよね、あの二人は。
とても苦しい中、一条の光、救いは作品と役者の奇跡の邂逅を観ることのできる喜びですね。


これはひたすら二人の物語でありながら、今現在十代の私達、かつて十代だった私達、否応無しに続く未来を自身で選択することを求められている私達の物語。

だからこそ突き刺さるし、ページをめくる手が止まらない。

次はいよいよ最終話。

4話の衝撃であまり内容を覚えていないので(ラストだけはしっかり印象にあるのですが)よく観返して感想を書くつもりです。