夏の羽衣

初めてのCPに挑戦しました。
それもこれもGene先生というか、Upくんがあまりにも浴衣が似合いそうなゆえ。
あと先生は絶対兵児帯!これは譲れません(笑)
Nubsibの仕事の現状をはじめとして設定は適当です。











「お願いします、Gene」
「は?!何言ってんだよ、やるわけないだろ」
「どうしてもだめですか?絶対Geneなら似合うのに」
「だからいつも言ってるだろうが!俺は小説家であって役者でもモデルでもないんだって!」
いつもながらの小競り合いをしているNubsibとGene のやりとりを気心が知れたスタッフたちは苦笑交じりにそれでも穏やかに見守る。


あまりにもすったもんだあった''Bad Engineer"以来久しぶりにGeneの小説がNubsib主演で再びドラマ化されることになり、また日本での配信も決まったことから今日は日本の雑誌の取材と撮影があるのだ。

その雑誌が発売されるのが8月、いわゆる彼の国における夏ということで、Nubsibは浴衣を着たショットも撮られることになった。
そのために着付けができる日本人のスタイリストも参加している。

そして何枚か用意された浴衣を見たときNubsibの目が企みをもって光った。 

「Geneもこれを着ましょう!」
で冒頭の攻防となるのである。
 
毎度のいわば痴話喧嘩ながら、今回ばかりはスタジオ内の空気はほぼNubsibの味方だ。

Geneの奥ゆかしくも優美な顔立ち、細く長い首、なだらかな肩の線、きめの細かい肌。

着付けのために呼ばれたスタイリストが
「Gene先生ならこれとか大変お似合いだと思います!」
と主演のNubsibには目もくれず真っ先に興奮気味に提案したのも無理はない。

そしてこんな格好のチャンスをNubsibが見逃すはずもなく。

「二人の思い出に撮るだけでもいいですから」 
「馬鹿なのか、お前は!記念撮影のためにプロの手を煩わせる気か」
傲然と顎を上げてGeneは言い募る。

「まあまあ、試しに撮ってみたら?」
「そうそう仕上がりが良ければ採用されるだけのことだし」
絶妙のタイミングで個人事務所の共同経営者でもありマネージャーでもあるTiffyとTumが割って入る。

「そうですよ、日本の浴衣を着られるなんて貴重な機会じゃないですか」
「今後の小説を書くときに役に立つかもしれませんよ」
Geneの物書きとしての好奇心をくすぐる。
Nubsibの恋人限定の人心掌握術は磨かれていくばかりだ。
「うーん」
反抗的に上がっていた顎が少しずつ下がり、首をかしげ、目が落ち着きなく泳ぎ始めるGene。
そしてーー




数ヶ月後、二人が暮らす家に一冊の雑誌が届いた。
表紙でこそなかったが、最初の方にかなりのページ数を割いて新しいドラマシリーズのことが掲載されている。

その中の一枚のグラビア。
浴衣を着たGeneとNubsibだ。

Nubsibが着ているのは黒の綿麻の地にグレーと白のトンボ柄が散りばめられたもの。
いつもながら一部の隙もない圧迫感すらある端正すぎる顔立ちに愛らしい柄が程よい抜け感をもたらしている。
白色の夏帯。博多織の正絹が着こなしに涼感と格を与える。
貝の口結びが凛々しいアクセントだ。

Geneは淡いクリーム色の麻地の浴衣。
柄は伝統的な黒の十字絣。
そしてその場にいたGene以外の全員が一択だと主張したやはり正絹の黒の兵児帯。それをちょうちょ結びにしている。
本人こそ
「なんでこんなフワフワなのをしなきゃいけないんだ!」
と不平たらたらだったが、空気を孕んだような柔らかいボリュームのある帯は中身はともかく?すっきりとたおやかなGeneの雰囲気にそれはよく似合っていた。

二人並んでソファに座り雑誌を見ながら
「結局俺のも載せたのかよ」
とか文句を言っているGeneだが、その目は浴衣姿に釘付けだ。満更でもなさそうである。
そんなGeneに
「いつか必ず二人で日本に行きましょう。そして花火を見ましょう」
と楽しそうにしかし必ず約束させると意気込みをもってNubsibは言う。

「よく言うよ、忙しいのはお前のほうだろ、そうそう簡単にいくかよ」
と他愛もない憎まれ口を叩くGene。
でも、と隣の年下の恋人の顔をまじまじと見つめ
「いつか行けたらいいな、日本の花火大会はすごいらしいし」
と言って派手な音を立ててその頬にキスをした。

「Gene!」
抱き締めようとしたNubsibの腕から器用にすり抜けた小説家は
「じゃ俺は仕事の続きをするから」 
とソファを立って部屋を出た。

一人残されたNubsibは思い返していた。
そういえばーー

兵児帯はそのままの状態だと4メートル近い長さがありその生地は非常に薄い。なので着付けるときに動かされるたび軽やかになびき、それはまるで子どもの頃絵本か何かで見た天女の羽衣のようだったのだ。

(羽衣があれば二人でどこへでも行けますね)

そしてNubsibはスマホで日本の主要な花火大会について調べ始めた。