空港点景〜願い事〜

七夕をテーマにPureFolkというか、Folkに出会う前のPureを書きました。
これでも心から彼の幸せを祈っているんですよ!
参考にさせてもらった写真です↓



https://ameblo.jp/poohka27/image-12491040832-14493935968.html







年上の恋人(正式に恋人と言えるのかは相変わらず微妙なところだが最近では一番多く夜を共にしていたのは確かだ)が日本の企業への研修に旅立つのを見送るため、Pureはスワンナプーム国際空港にやって来た。

語学に堪能な知的な面差しの彼女と、とても高校生には見えないファッショナブルなPureの二人が別れを惜しむ様子はまるで映画の一場面のようで、大勢の人々が忙しなく行き交う中でさえ人目を引いた。

彼女の姿が搭乗ゲートに消えるまで笑顔で情熱的に手を振っていたPureだったが、一転帰路につくため歩き出すとその表情はあまりにも冷めていた。
まるで出番を終えた役者のように。

そしてPureは先程彼女と別れるまでは特に気に止めていなかった色とりどりの細長い紙がふんだんに飾られた木に目を奪われた。

よく見るとそれは木ではなく、笹の葉が生い茂っている竹だった。

そしてその竹のそばにはたくさんの紙とサインペンが用意してあり、説明書きを読むとこれが毎年七月七日に行われる七夕という中国由来のお祭りであること、この紙に願い事を書いて笹に飾ると叶うと言われていること、日本でも昔から定着している行事であることなどが書かれていた。

確かにそれは日本の航空会社が設えたものだった。

(願い事か…)
笹の葉に吊らされ、空調の風になのか柔らかく揺れる夥しい数のいろがみ(短冊というらしい)はまるで空から降り注ぐ花のようだ。

でもその華やかさとは逆にPureの心はどんどん暗渠にはまり込むようだった。

運命の皮肉により引き離された織姫と彦星が年に一度だけ天の川を渡って会える日。

人はそんな二人を悲恋と呼ぶのだろうが、Pureにしてみればそうまでして会いたい相手がいるということ自体が空恐ろしいほどの幸運にしか思えなかった。

家族の愛情からも初めて本気で好きになった人からも、それこそ書き損じた短冊のように丸めて捨てられた苦い記憶。

言い寄る男女は星の数ほど、と言ったら大袈裟かもしれないが不自由しないのは確かで艶やかに夜を飛び回る日々。
それでいい、それが自分にふさわしいと言い聞かせなだめているのに。

それなのにこの穏やかな優しい願いにあふれている(よく目を凝らせばもっとドロドロとしたものが蠢いているのかもしれないけれど)揺らめく色の連なりが、あまりにも自分からは遠くかけ離れているように見え、またそのことを惨めに感じる自身に気がついてしまった。

思わず短冊を手に取る。
でもどうしても自分が何を願っているのかがわからない。
頭が痛くなるほど考えてやっとのことで書いたそれを笹の葉に結び、Pureは空港を後にした。
そして気恥ずかしさを振り払うようにスマホを取出し今夜の相手を見繕うため画面をスワイプした。
その足取りはしなやかで踊るかのようだった。それは再び舞台に上がった役者の姿だ。




〜いつか大好きな人と願い事を書いた短冊を飾ることができますように〜