空港点景〜あの頃の君と〜

空港点景、シリーズにしようかしら?
書きやすいです。
今回は初めて挑戦するCPでございます。
煽られっぱなしなだけでなく煽るPiを書いてみたかった。
覚悟を決めたら強いんじゃないかな、Piは。
ドラマよりは早い展開ですかね(笑)








 



ある週末の昼下り。
兄のDueanは恋人のMeenとお出かけ。
両親は少し離れた町に住む親戚を訪ねている。

そんな中いつものように、いや、この俺がこの状況を「いつものように」と言えてしまう日が来るとは今でもどこか信じ切れないのだが。
とにかくMorkとPiは自分と兄の部屋で幼い頃のアルバムを引っ張り出して床に並んで座り一緒に見ていた。
いや、これも付き合い始めの恋人同士なら極めて典型的な過ごし方だろうがやはり以前のPiなら考えられないことだ。
だって昔の自分の姿を大好きな人に晒すんだよ!

もちろん今だって恥ずかしくてしょうがないのだが、とにかくMorkの顔があまりにも優しくて幸せそうでおまけになぜか懐かしそうで、それを見るともう何も言えない。

「ホントに昔っからPiは可愛いな」
と目尻を下げるだけ下げ
「ああ、この頃のPiに会いたかった!友達になりたかった」 
と呻くように言って天を仰ぎ、いやはや、忙しいやつだ。
キャンパスで仲間たちと一緒にいるときなどのMorkは決して愛想が悪くもとっつきにくいわけでもないが、こんなに表情が豊かではない気がする。

それは恋人である自分の前だからこそ、と思うのだが、いや、思っていいのかな、それはおこがましいのではなかろうか、今日も今日とてPiの思考はぐるぐる回る回転木馬だ。

「よく言うよ、お前みたいな人気者が中学生の時の俺なんか相手にするわけないだろ」
と混乱の末、どの角度から見ても様になる容貌の恋人に憎まれ口を叩いてしまう。
そこに映っているのは黒縁眼鏡の奥にいかにも自信なさげで頑な視線を宿している集合写真の中の自分。
数少ない学校での写真では大体いつもこの表情だ。

兄弟仲はなんのかんの言って今も昔もいい方だとは思うので、Dueanと一番上の兄Wanとのそれはまだマシな方だ。
その中の一枚を指してMorkが
「これいいな!」
とはしゃいだ声を上げた。

それは巨大なジェット機をバックに兄弟3人そろって!とびきりの笑顔で映っている一枚だった。
そう、いつも穏やかで利発そうな長男と今にもどこかに走り出しそうな元気一杯の次男はともかく、おとなしい末っ子までがこんなに楽しそうなのは珍しかった。

「Piは飛行機が好きだったのか?」
と尋ねるMork。
「うん、好きだったとは思うけれど…」
と記憶を辿りつつぼんやりとPiは答えた。

それでもそこは歯学部生、Morkの問いかけをきっかけにいろいろなことが鮮明になってポロポロとこぼれ落ちてきた。

小学生の頃はその年齢らしく飛行機のパイロットか、もう少し大きくなると航空管制官など空港で働く仕事に就きたかったこと。


ただネガティブな方へ傾きがちではあったが基本的に賢い子どもだったPiは、不測の事態にすぐにオロオロしてしまいしかも瞬時に複数の判断を求められる空の仕事が自分には向いていない、と悟り中学生の途中には諦めたこと。

そうだ、だからは自分は基本的に一対一で仕事をする歯科医を目指したのかもしれない。


MorkはそんなPiをいつも以上に愛おしそうに見つめ、彼が紡ぐ訥々とした言葉にじっと耳を傾けていた。

決して愉快とは言えない思い出だけれど、落ち着いて振り返ることができたのはMorkのその眼差しのおかげだ。

そして話しているうちにどうしても伝えたいことがあるのにPiは気づいた。
「でも空港関係の仕事を目指さなかったことを後悔はしてないよ」
「もしそっち方面の学部だったら今の大学に入っていないし、そしたらお前にも会えなかったわけだし」
Morkの少し長めの前髪から覗く綺麗な二重の目を真っ直ぐ見ながら、でもそれはまるで
「今日の晩御飯何食べる?」
とでも言うような何気ない口調だった。

途端にMorkの顔からあらゆる表情が抜け落ちた。
と思うと頭を抱えて項垂れてしまった。

びっくりしたのはPiの方だ。
「え?俺なんか変なこと言ったか?」
「気分でも悪くなった?ベッドで休むか?」
戸惑いながらでも自分がやらかした心配よりも恋人の体調を第一に考えられるようになったのは進歩だろう。

「いや、違うよ、そうじゃない」
Morkは言うとゆっくり顔を上げPiを見つめ返しその大きな手でその小さな顔を挟み込んだ。
「あんな可愛いこと言われて正気でいられると思う?」
先程までのひたすら慈しむだけではない熱を孕んだ瞳。明らかに情欲の混じる声音。
こういうときの一種迫力のあるMorkの色気にはなかなか慣れない。いや、慣れる日なんて来るんだろうか。
それでも自分の顔が真っ赤になっているのを自覚しつつPiもMorkから視線を逸らさなかった。
ちょっと果たし合いの様相すら呈しているかもしれない。
それでもその負けん気、意地っ張りこそがどんなに周囲に蔑ろにされいいように使われても、学校に行き続け大学に現役合格を果たしたPiの矜持でありMorkが惹かれたところでもあった。
そんな時の自分がどれくらい清艶なのかにはまるでPi自身は気づいていないのだが。



どちらからともなく二人の唇が重なる。
もつれるように二段ベッドの下段になだれ込む。
さすがにここはあまりに狭くて、最後までは行き着けないのは承知だけれど我慢も限界だった。

Piを組み敷く格好になったMorkの顔を見上げて、緊張しながらも彼の首に自分のすらっと長い両腕を回しつつPiは言った。
「さっきの写真どこで撮ったかわかる?」
「いいや、どこなんだ?」
「空港のすぐそばのホテル。屋上から離着陸もよく見えるんだ」
ますます紅潮した頬のままそれでもはっきりとPiは言い切った。
もうドキドキし過ぎて心臓の自己主張が激しい。

するとMorkはPiの耳に唇を寄せ、
「じゃあ次の休みそこに予約を取ろうか」
と少しのからかいを乗せて囁き、大好きだといつも言っているPiの耳のほくろにキスをした。それから内心絶対あの写真と同じアングルでこのたおやかな肢体の恋人の写真を撮る、と決意した。その切羽詰まった顔をPiは知らない。

勉強熱心な医学部と歯学部のカップル。
写真撮影も他の大切なことにも予習に抜かりはないだろう。
まあ、試験にハプニングはつきものだが、合格の期限は定められていないのだから焦ることもないのだ。