テラス席へどうぞ①

作中に出てくるカフェはホテルペニンシュラバンコクがモデルです。
いつか行ってみたいものです。
②では実際にデートさせるつもり(笑)


参考にしたサイト↓

https://www.peninsula.com/ja/bangkok/hotel-fine-dining/the-lobby-afternoon-tea

https://lade.jp/diary/tabelog/cafe/41617/

これを書こうと思ったきっかけのFiatくんのインスタ↓
https://www.instagram.com/p/CPm4LasH-i9/?utm_medium=copy_link





「ただいま!」
付き合うようになってからはそりゃあ毎日楽しそうなPureだが、今日は一段と上機嫌な帰宅の挨拶だ。

「お帰り」
とあるサイトで連載中の恋愛小説(なかなか人気らしい)を書いていたFolkは、キーボードを叩く手を止めてPureの方を向いて言った。
「なんかいいことでも…」
「FoIk、今度の週末デートしよう!」
Folkの問いかけはPureのえらく意気込んだ声で遮られた。
「は?!」
何の前置きもない直球の発言。
「急にどうした?」
ついつい訝しげに尋ねてしまう。
「あ!なんか疑ってる?言っとくけど疚しいことは何もないぞ」
Pureは慌てて言った。
「へーほんとに?」
FoIkはわざと目を眇めてPureを見る。
もちろん何かある、なんて全く思ってはいないけれど、FoIkがPureの一夜のアバンチュールを重ねていた過去をつつくと、大層きまり悪げでまたその様子が可愛いのでついついからかってしまう。

「じゃあなんでいきなり、」
「だって俺たちまだ一度もいわゆるデートらしいデートをしたことないじゃないか!」
Pureは言い募る。
(そう言われたら確かにそうかも)
Folkも改めて考えてみた。

何しろ寮に帰れば部屋は隣同士。
また、他の医療系の学部の例にもれず歯学部のFolkは課題も多い。小説も書いている。
PureはPureで羽を伸ばしまくっていた頃の名残で付き合いは広いし、元来面倒見もよく目端も利くのでやれ学部の行事だの、友人の相談だの、と忙しい。

というわけでデートといえるとしたら週末寮の近くの大きなショッピングモールで買い物をしたり、ご飯を食べたり、たまに映画を観たり、くらいだ。

まあPureは
「FoIkと一緒なら場所なんてどこでもいい」
とことあるごとに言っているし、Folkも物欲も含めそんなにここが行きたい、とかあれがしたい、とか強く求める方でもない。

なのでPureの提案に首を傾げてしまう。

「ホントにどうした?」
Folkが改めて尋ねるとPureが実は、と話し始めた。

さっきまで学部の入学希望者向けのイベントの準備をしていたら、近くの女性の先輩グループの会話が聞こえてきたらしい。

そのうちの一人に社会人の恋人がいて、今度ここのアフタヌーンティーに連れて行ってもらう、とスマホの画像を見せて羨ましがられていた。

そこは誰もが知る一流ホテルのカフェのことだった。

「ほら、お前この間今回の小説は社会人同士のカップルだから、ちょっと大人っぽいデートをさせたいって言ってたじゃん」

Folkは毎度のことながら少し驚いていた。

しつこいようだが、あまりに最低の初恋の結末以後はその場限りの関係しか持たなかったPure。しかしそこは魅力的な彼のこと、その後真剣な交際を迫られたことも少なくなかったが、そうなるとこれまた徹底的に逃げ二度と相手にしようとはしなかった。

そんなPureがFoIkが何の気無しに口にした言葉や仕草をことごとく覚えているのだ。

今回の大人のデート云々も言った当の本人のFolkが忘れかけていたくらいなのに。

「だからさあ、取材も兼ねて行こうよ」
そしてそれまでは椅子に座るFolkの横に立ち見下ろす格好だったのがいきなりしゃがみ込み、Folkの腿に頬杖をついて上目遣いで見つめてくる。

(ったく俺がこの顔に弱いのを知ってて)
ここぞというときに自分の顔の良さを利用するんだもんな。
心の中で悪態をついてみるものの、今の自分がおそらく微笑んでいるであろうことは自覚がある。

そして気づいたのだ。
飄々とマイペースでいながら、実は遠慮がちなところがあり金銭感覚も堅実なFoIkを気遣ってPureがわざと小説のネタ探しにかこつけていることを。

「お願い、俺もベタなデートってのをしてみたいんだよ」
このキラキラした瞳を拒絶できる人間がどれくらいいるだろうか。まして自分の恋人なのだ。
せめてもの抵抗で大きめの溜息をついて
「わかった、いいよ」
と答えた。

それを受けてのPureはこれぞ破顔一笑
それからFolkのパソコンでカフェの画像を呼び出した。

高い高い天井から床まで一面の大きな窓。
その向こうにはゆったり流れる川。
季節の花々がそこかしこに飾られ、調度品もさすがに品が良く開放感とのバランスが素晴らしい。
確かにアフタヌーンティーといえど大学生にはかなり贅沢なお値段だったが一旦行くと決めた限りは精一杯堪能しよう、という方にFolkは舵を切った。


やっぱりテラス席がいいよな、などと話しているうちにすっかり盛り上がってしまった。

そんな中ふとFolkはパソコンの画面に見入るPureの横顔をつくづく眺めた。

それに気づいたPureが
「どうした」
と無邪気に尋ねる。
「うん、別になんでもないよ」

主に休日前の欲情に溺れた!夜の後の夢うつつのピロートークのときとかにPureは
「俺と出会ってくれてありがとう」
とか
「ずっとそばにいてくれよな」
などとぽつりぽつり言うことがある。

あまり詳しくは聞いたことはないし、正直それほど知りたくもないのだが、これまでのPureが愛情に満ちた生活を送ってきたとはとても思えない。

だからこそ彼はFolkとの関係を何よりも大切にしてくれている。
でもそれはFolkも同じなのだ。 
多分Pureが思っているよりずっと。

確かに家族仲は悪くないし、そこそこ裕福に特に不自由なく暮らしてきた。

ただまだ両親には自分のセクシュアリティについては話していないし、今後話すこともないだろうと、薄い諦念を覚えている。
そんなどこか投げやりな心持ちではなかなか恋愛は上手く行かなかった。

だから始まりこそ体の関係からだったが、特に何も言わなくても自分のひんやりした部分に寄り添ってくれるPureに強く惹かれたのだ。

「お前と付き合わなかったら、こんなところ行こうという発想もなかったろうな」
伝えたかったのは前半部分だよ、という気持ちを込めてFolkは言った。


さてドレスコードはスマートカジュアル。
正直どんなものがふさわしいのかはわからないが、ファッションセンスに定評のあるPureに任せておけば大丈夫なはずだ。

「俺の服選んでくれる?」
「お任せください」
と執事よろしく恭しくお辞儀をするPureの笑顔に思わず吹き出しながら、カフェの眼前を流れる川面を吹き渡る風をFolkは確かに感じた。