微睡みの賭け

公式のお二人の妖艶さに置いていかれそうです。
これもよくあるエピソードだとは思いますが好きなんですよね。 
少しは大人な雰囲気になっているといいな。
後三人兄弟で育っているのできっとPiは食欲旺盛だということにしています。
















幾度過ごしてもこの上なく狂おしく他にはもう何もいらない、と思ってしまうほど官能に訴える夜が明けたその朝。
Morkはいつもささやかな賭けをしている。
(今朝はどうだろう?)
空調の音が低く響く分静けさを強調する自分の部屋。
カーテン越しの陽の光は休日の朝がそろそろ昼に差しかかりそうな気配を運んでくる。
もうすっかり馴染んだ輪郭が自分の肩のあたりに寄り添っている。

体を繋げた後特有の満ち足りた気怠さを味わっていると、隣の人の手がMorkの髪をそっと撫でているのに気づいた。そのままその指は眉毛をなぞり頬から顎へ降り鎖骨のあたりで止まった。

それが合図だったかのようにMorkがゆっくりと目を開けると
「おはよう」
囁くようなPiの声が聴こえ、焦点が合う直前のぼんやりした視線をMorkに投げかけていた。
一日のその始まりに誰よりも愛しい人が目に飛び込んでくる、これを幸せと言わずになんと言えばいいだろう。
また当の本人は全く気づいていない切れ長の目元から零れ落ちる艶めきときたら。
ベッドに横たわっているにも関わらず倒れそうだ。

それでも平静を装いMorkは答える。
「おはよう、今朝は先に起きてたんだな」
「俺の方が寝坊で体力ないみたいな言い方だな」
とPiは不服そうに口を尖らせる。
指先がさっとMorkの体から離れる。
「俺の方が先に起きていることが多いのは事実だろ」
Morkの面白そうな口調に
「すぐそういうことを言う、だいたい誰のせいで俺がなかなか起きれなくなるんだよ」
とますます不機嫌の色を濃くしたPiはついに反対側を向いてベッドの端の方に行ってしまった。

その拍子に何も身に着けていないほっそりとした肩の線と滑らかな背中がシーツから半分くらい露わになる。

(起き抜けにこれは刺激が強すぎる)
と動揺を隠しきれないMorkはついつい人差し指でその背骨を上から下へ撫でてしまう。

「またそんなことをっ!」
首だけ捻ってMorkの方に向き直るPiの顔は赤い。慌ててシーツを自分の体に巻きつける。

「ほら恥ずかしがらないで俺の方向いてよ」
「昨夜は自分の方からしがみついてきたくせに」

畳み掛けるとPiの目が大きく見開かれ
「よくそんなことをポンポン言えるよな、信じらんないよ!」

いよいよ顔を枕に押し付けてMorkから表情を隠してしまう。 
そしてくぐもった声音で
「Morkのバカ!お前より先に起きたらしようと思ってたことがあったのに」
と拗ねたように言う。

途端にMorkは直前までの自分をおそろしく後悔した。
なんだ、そのどう考えても魅力的な企みは。
とにかく何としても聞き出さねば。

「ごめんPi、謝るから機嫌直してよ」
返事はない。
「お前が可愛すぎるからついついいろいろ言いたくなるんだよ」
「本当に反省してるからさ、朝ごはん(もうブランチの時間だが)なんでもお前の好きなものにしていいぞ」
いつものクールで自然と人々の耳目を集めてしまう美貌はどこへやら。もう必死だ。

するとそのスラッと細身の体型からはちょっと意外なほど食いしん坊のPiの反応があった。

片目だけ枕から覗かせると
「ホントになんでも奢ってくれるんだな」
と念を押してくる。
「本当だって、だから、な、顔を見せてよ」
すると内心はそうではないのは二人ともわかりきっているものの、一応渋々といった様子でPiはMorkの方に再び向き直った。

「でさ」
「ん?なに?」
さっきまでよりは幾分やわらいだ声でPiが言う。

「俺より先に起きていたらしようと思っていたことって何だったんだ?」

するとPiは自分から何か仕掛けるときの癖で舌で唇をひと舐めした。
瞬く間に形勢逆転。
いつもPiをその言動で優しく困らせているMorkは今や標本箱に新たに加えられる直前の蝶だ。
そしてPiはそれを刺す美しい針。

手招きするような表情はMorkが拒否することなんか許さないと無意識に告げている。
Morkは身じろぎひとつできなくなる。
そしてPiは片方の手をMorkの頬に添え、もう一方は首の後ろに回し満足そうに微笑みながら自分の方から唇を合わせた。

「先に起きた恋人が後から起きてきたやつにするって言ったらこれしかないだろ」

さてはてこれからどうしよう。
悩ましい選択を迫られてしまったMork。

ブランチを食べるか、もしくはこのままもう少し、いや、少しでは済まないかもしれないのだけれど、引き続きベッドで過ごすのか。

彼を仕留めた張本人の針は片肘をついて返事を促すかのようにMorkを見つめている。
そのPiの周囲に妖しく舞う鱗粉が確かに見える気がした。
夢現の光景はMorkの欲望の写し絵だ。

"The die is cast"

答えは決まったも同然。