羽づくろいの夜

たまこさんのフリー?素材をいただきました。
えらい重い話になったかも。

この曲を聴きながら書きました↓

https://music.youtube.com/watch?v=Ytaxk7dDFVg&feature=share






今夜のPiは疲れ果てている。
大学病院での実習の後、レポート発表の担当班のメンバーとなり一週間近く多忙で知られる医学部のMorkから見ても大変な日々だった。
そんなこんなも本日無事発表を済ませ、終わりを告げた。 

その後は待ち構えていたMorkにさっさと連れ帰られた。
(途中で夕食はテイクアウトはしたが)

帰宅すると二人で夕食を食べ(MorkはPiのことばかり気にかけていたが)、シャワーを終え、王家への捧げ物よろしくバスタオルを両手に掲げて待っていたMorkに今は髪を拭いてもらっている。
「えらく手触りがいいな」
バスタオルに触れたPiが言うと
「お前が泊まりに来たときに使ってもらおうと思って」
「また、俺なんかのために無駄遣いして」
大体今着ている水色のパジャマだってスーピマコットンとやら言うとろけるような素材のものだ。
「Piが快適に過ごせるためのものに無駄遣いなんてことはない」
と嬉しそうにしかし一片の迷いもなく言い切るMork。

こういう彼に何を言っても無駄なことはさすがにわかってきたPiなので、そのまま黙っていた。
と、今度は仕上げにドライヤーで髪を乾かし始めた。
温風と優しい手つきにうとうとしかけるPi。
それでもMorkがドライヤーのスイッチを切ると少し目が覚めて振り返り
「ありがとう」
とお礼を言う。
親しき仲にも礼儀あり、だ。
というかせめてそれくらいしないと、あまりに心地よくてどんどん自分が形をなさなくなりそうなのだ。
手足をそっともがれるような、繻子の目隠しをされるような感覚。

Morkと付き合うようになるまで恋人はおろか友人もろくにいなかったので、家族以外から見返りなしの愛情をもらった経験などなく。

なのに初めての、そしておそらく、いや、絶対最後の恋人であろう人は無類の世話好きときている。
(本人は、Piにだけだよ、と言うのだが)

最初の頃こそ気恥ずかしさのあまり拒否したり、嫌々ながら受け入れたり(表向きには)していたが、最近はもう大概のことはMorkの好きにさせている。

しかし元来生真面目なPiは定期的に
(これでいいのだろうか)
という疑問の波に襲われる。

でも結局行き着く答えはいつだって同じ。
(Morkのいない人生なんてもう考えられないんだから、一人になることもないんだ)
一人になった時点で自分の人生は終わったも同然。
それは絶望にも見え、妄執という人もいるかもしれないけれど、後戻りが許されないがゆえの幸福でもある。

でも今はその強すぎる思いはしまって。
とりあえずベッドに潜り込んで。
それから
「お前も来いよ」
と、呼びかける。
頼まれずともいそいそ隣にやって来たその人の腕を自分の頭の下に潜り込ませ枕にすると
(俺にこんな決意をさせたんだからお前も覚悟しろ)
と果たし状を密かに叩きつけ、しかし、口をついて出たのは
「今日の俺は疲れているんだ」
「だから俺が寝るまでそばにいろ」
という聞き分けのない子どもの言い草。

それでもMorkは心得たとばかりに形のいい眉と目尻を下げふわりと微笑むと
「喜んで」
と言いながら、Piの背中を静かにリズミカルにトントンと軽やかに叩く。
歌詞のない子守唄。

程なく部屋には空調の音とPiの寝息の二重唱が流れ始め、Morkは眠りに落ちる直前のやけに息巻いたPiの物言いを思い出して首をかしげながらも前髪をそっと払い、その愛しい利発で無垢な額に羽毛のようなキスを落とした。