蓮花の陰で

MorkとPiがロイクラトン祭りに行った同じ寺院が舞台です。
こぢんまりしたところに設定したのに各種取り揃えさせてごめんなさい、の気持ちです(笑)


確か3回目のワンドロ企画参加です。
テーマ「独占欲」

今回のBGMはこちら↓
椿屋四重奏"CRAZY ABOUT YOU"
https://music.youtube.com/watch?v=fzqwNK9bsJg&feature=share





いつもように授業終了後MorkがPiを自宅まで送って行く車の中、Morkが言った。
「あのさ、ロイクラトン祭りに行った寺があるだろ」
「うん」
あの満月の夜のことを思い出すのか、少し照れたようなPi。
「そこに池があるんだけどさ」
「今蓮の花がきれいなんだよね」

するとPiの表情が好奇心に取って代わった。
「見たいな」

「ただ朝早くじゃないと駄目なんだ」
「昼頃にはしぼんでしまうから」

「じゃ、前の晩からお前の家に泊まって早起きしたらいいじゃん」
多少顔を赤くしながらでもそんなことを言えるようになったPiに深い感慨を覚えるMork。

「お前の方からそんなことを言うとはな」
「な、なに言ってんだよ!」
「朝寝坊して見れなかったらつまんないだろ」
と焦って落ち着きがなくなるPi。

すると車が止まった。見ればPiの家の前。
「Morkは俺と一緒に見たくないのか」
甘えたような、自信なさげな様がいっそ誘惑しているかのような上目遣い。
(絶対誰にも見せたくない)
もう何度目なのか、数える気などとうに失せているその思いを新たにするMork。


「そんなわけないだろ」
「そもそもこの話を言い出したのは俺だし」
そう言うとMorkはPiの柔らかい頬に別れ際のキスをした。

そんな顛末を経て二人はMorkの家の近くの寺院を再び訪れた。



 
早朝。
さして広くない池を埋め尽くす赤い蓮の花の群れ。
深夜少し雨が降ったからか濃い霧が周囲に立ち込めている。

お陰でそう多くはないものの、この神秘的な光景に惹かれ訪れている人たちも、今はぼんやりとした輪郭でしかない。

(このまま霧が晴れなければいいのに)

しかしMorkの願いも空しく周囲は少しずつ明るさを増し、その代わりあの世とここを結ぶ赤いみなもが鮮やかに目を射る。

「すごいな」
極楽浄土を象徴する花々に心奪われているPi。
その横顔は清冽で本当に本当に綺麗だ。
引き換えMorkは自分が見せたいと望んだそれにまで嫉妬しそうな気持ちを必死に飲み下す。 

そしてPiの腕をつかもうと伸ばした手を思わず下ろしてしまった。
乳白色の帳に愛しい人をずっと閉じ込めたいという気持ちが指先から伝わりそうで触れるのを躊躇わせた。

「Mork?」
怪訝そうな顔で小首をかしげるPiだったが、少しはにかみながら自分の方からMorkと手をつないだ。
「まだ霧が残っているから」
世界で一番可愛い言い訳をするその人を思いっきり抱きしめたい衝動を最大級の理性で押さえつける。

Piはいつもそうだ。
Piの髪の毛一筋、爪の一片、実はくるくると表情を変える瞳の一瞬一瞬、それら全てを自分だけのものにしたくて、そんな気持ちを抱くことを嫌悪したり反省したりはしないけれどさすがに空恐ろしくなることもある。

すると何も知らないはずのPiが絶妙なタイミングでMorkを赦してくれるのだ。

胸の奥底に流れる暗渠もそれはPiへの際限の無い愛ゆえだ、と誰ともなく弁明する自分は狡いのかもしれないけれど。

でも今はこのときは。
「うん、これならまだ周りに気づかれないな」
いつものようにMorkは甘やかにPiに笑いかけると、手を取り合って朝の光の中を二人は少し早足で進んだ。