比翼の鳥は色を歌う〜Color Rush感想〜

Twitterでもかなり話題になっていた韓国のBLドラマ「Color Rush」
AbemaTVで配信されるとのニュースを知ってから心待ちにしていました。

以下ドラマの内容に踏み込んでおりますのでご注意ください。
粗筋は↓もご参照ください。

https://navicon.jp/news/65609/








韓国国内では、神経性の異常により視覚から色を奪われる人々通称「モノ」が出現した。
そしてモノの視覚に色を与えるのが「プローブ」と言われる人々。

ただ色を与え、与えられる「モノ」と「プローブ」はお互い唯一無二の存在。

ゆえに一生出会わずに灰色の世界で生きていくモノも多く、また一旦プローブに出会ってしまうとモノのプローブに対する執着はエスカレートする一方で、監禁、殺人などの事件に発展することも多い。

そんな社会状況の中、主人公の高校生ヨヌがとある男子校に転校してくるところから物語が始まります。

実はヨヌはモノ。転校の理由も前の学校でモノであることをからかわれてその相手を殴ったことでした。

またヨヌの母親もモノであり、4年前に失踪しています。父親も亡くしているヨヌは母の妹にあたる叔母と暮らしています。

そういう経緯があってヨヌは人との関わりを極端に避け、プローブに出会うことも恐れています。
とにかく平穏な生活が何よりの望み。

ヨヌを演じるのはユジュン。大変な美貌の持ち主です。おそらく一重かな?だけれど大きな目、鼻筋はすっきりしているもののもそれ程高くはなく、全体的にあっさりしたお顔立ちなんですが、バランスが絶妙。神秘的な印象を与えるので、このヨヌという役にぴったりです。
また子役経験も長いとのことで演技力も相当なもの。出てきた途端ヨヌが重いものを胸に抱え孤独だ、というのがすぐに伝わってきます。
囁くようなモノローグの上手さは必見!

そんなヨヌに転校してきて早々、首をかしげたくなるほど急激に距離を詰めてくるクラスメートのユハン。
ヨヌを見るなり
「お前キレイな顔してるな」
「(アイドル)練習生?俳優志望?」
とグイグイ迫ってきます(笑)

ユハン自身は顔の殆どを覆う黒いマスクがトレードマークのアイドル練習生。
演じるのはこれが演技初経験の元アイドルグループTHE BOYZ出身のホ・ヒョンジュン。
こちらもユジュンに負けず劣らずの美しさ。
ユジュンの物静かな印象とは対照的にとても華やかです。さすが元アイドル!
そんな経歴もありマスクで隠れていて唯一覗く吊り目がちのアーモンドアイだけで、一種のカリスマ性、きっとこの子はデビューしてトップアイドルになるなと思わせます。

後アイドル時代のダンスの映像を観たのですが、レベルが高くてびっくり!さすが韓国エンタテインメント界で人気が高かっだけあります。

最初のうちは自分にとっては何の見返りもない、というか危険なのがわかりきっているのに、モノであるヨヌに近づくユハンの気持ちがつかめなくて色々勘繰っていました。

でも最初は頑なだったヨヌが心を開いていく心情が、プローブであるユハンによって世界を取り巻く色を覚えていく様子と重なり細かいことは気にならなくなりました。
そして最後の方でユハンの事情もわかってちゃんと回収してくれます。

とにかくヨヌにユハンが近付いて(これが本当に至近距離!)色を見せる現象「カラーラッシュ」の場面が素晴らしい。

まずカラーラッシュを起こすためには、ユハンがマスクを取って顔を全部出さなくてはならないので、その花のかんばせが露わになるという有難さ(笑)

またカラーラッシュは身体的、心理的負担が大きくヨヌは気絶したり、具合が悪くなることが多いので、熱心に介抱するユハンが見られます。

大事な宝物に触れるようにヨヌの顔を撫でるユハンの手の優しいこと!


あ、エフェクト(映像、音楽とも)は皆さんおっしゃっているようにもう少し何とかならなかったのか、と思わせるチープさなんですが、段々慣れてきて「これはこれでいいかも」となんか癖になってきました。

「カラーラッシュ」を経験するごとに二人の心の距離が近づいていく。
いや、身体的距離はユハンの方からのアプローチで最初から近いので(笑)
ことあるごとに
「俺を見ろ」
とキスせんばかり顔を近づけます。でもこれには切実な意味がありました。

ユハンはヨヌに常に静かに寄り添いながら、世界に溢れている様々な色を少しずつ教えていきます。
多分ユハンにとって色を与えることは自分を委ねることと同じ。

そしてユハンを通して世界を彩る色を覚えていくヨヌ。それは知らなかった自分に出会うことでもあり、失ったものを取り戻すことでもあって。

話は前後してしまうのですが、五話で自分の家に来たユハンにヨヌはあるお願いをします。
「父さんが描いた母さんの絵の色が観たい」
かなり大きな多分油絵?の母親の肖像画なのですが、この絵はヨヌにとって特別な意味がありました。
絵の中の母親と四年前失踪する直前の彼女が身につけていたのは同じカチューシャ。
ヨヌはどうしてもその色が知りたかった。
なぜならそれが何色かを問われたのが、母とヨヌの最後の会話だったから。

そしてそれが黄色だったことを知って溢れる涙を止められないヨヌ。
それを優しく、本当に優しくそっと拭うユハン。
このときヨヌは目を背けていた、いや見ようとしても見ることが叶わなかった自分の感情と家族の記憶を取り戻したのだと思います。

こんな二人が恋に落ちるのは必然。
ユハンは最初から積極的で、ヨヌはそんな彼に怖気づきながらも惹かれていくのを止められない。

二人が放課後光と色をテーマにしたパビリオンに行く場面はこの物語の中でも特に美しい。
MV にもなっています。

https://youtu.be/LDQhmN-1Up0

なぜ二人以外の来場者がいないのか、というのは野暮ですね。

雨のように降り注ぐ色とりどり光の中、まるで御伽話の登場人物のように踊るような足取りで進む二人。特にユハンの所作がしなやかで目を奪われます。
見つめ合う横顔。二人並んで寝そべり指を絡め合う。
本当に楽しげで、微笑ましいのに簡単に触れることをためらわせる儚さが色濃く漂い、胸が苦しくなってしまいました。

しかしヨヌはユハンに執着していく自分を恐れ、でも失うことにも耐えられず、次第に精神の均衡を失っていきます。
なぜか自分がユハンを誘拐して手足を縛るシミレーションまで始めてしまう。

練習と称して動画を見ながら自分の手足を縛るヨヌがかわいそうで、でもうっすら滑稽で、でも痛々しい。それを体現できるユジュンの演技力が素晴らしい!

いよいよ追い詰められたヨヌは首を吊って自殺を図ります。

ヨヌの様子がおかしいことに気づいていた叔母により一命をとりとめますが、彼が意識不明の間に転校と転居の手続きが進められ、携帯も解約され、ユハンと引き離されてしまったヨヌ。

虚ろに入院生活を送っているヨヌのもとにある夜、突然ユハンがやって来ます。

病院を抜け出して海を目指す二人。
いわば恋の道行きなんですが、二人が高校生ということもあってか、切なさの中にどこか可愛らしさがあり軽やかなんですよね。

辿り着いた海辺でユハンがとうとう自分の秘密を打ち明けます。
「おれは人の顔がわからない、幼なじみの顔も覚えられない、失顔症なんだ」
「でもお前を見ているときだけは顔がわかる」

ユハンといるときだけ世界が色づくヨヌ。
ヨヌといるときだけ人の顔、ヨヌの顔だけを認識することができるユハン。

二人は、お互いにお互いが世界と繋がる鍵をその手に握っていたのでした。
そしておそらくお互いにとって初めての恋。
ラスト近くの海辺でのキスシーンはとても初々しくて愛くるしいです。

分かちがたく結ばれている恋人を称して「比翼の鳥」という有名な表現があります。

片翼、雙眼の二羽の鳥は各々で地上を歩くことはできるが、空を飛ぶためにはにその身を一つにしなくてはならないという伝説。

とてもロマンティックなお話ですが、あまりに切実で、どちらかが死ねばもう片方も生きていけない危うさがあって簡単に使えない気がしていました。

しかし、物語の最後、屋上に向かうべく手を繋いで学校の廊下を楽しげに駆け出す二人を見たとき、若さと強かさでこの比翼の鳥は空に羽ばたいていくのかも、と思えたのでした。



後やはり触れておきたいのは韓国作品お得意の詩のような美しい台詞の数々。
「この世界の色はすべてお前のものだ」
「俺はそれを教えたいだけ」
「ここから見る夜景が俺が知っている中で一番寂しい」
「(君は)僕に色を見せ、喜びと喪失感を教えてくれた」
だめですね、全部書き出しそうです。

と言いますかユハンがヨヌに色の名前を教える場面は全てどこか淡い夢のよう。
 
特に学校の階段下のベンチに二人座りヨヌが
「君の瞳はキャラメル色?」
と問いかけ、それを受けてユハンが茶系の色の名前を歌うような節回しで羅列していく場面がとても好きです。 
「ココア、チョコレート、ヘーゼルブラウン…琥珀、ロンドン・フォグ…」
ユハンが囁く自分の瞳に続く色の名前は、ヨヌが恋に落ちる魔法の呪文でしたね。


また二人の友人のヨンジェとジュファンが、どこかとぼけた雰囲気ながらヨヌとヨハンをさり気なく温かく見守っていて和みました。

哀切でポップ、懐かしいようで斬新、めくるめくようで佇んでいるような、一言で言い表せない手触りの作品です。

次回作も企画されているようで、ここで回収されなかった謎、例えばヨヌの母親の失踪などや、その後の二人を見たいです。